侍女の物語
初めはイギリスの話だと思って読んでいたのですが、アメリカが舞台でした。
キリスト教原理主義に則った体制を敷く共和国ギレアデ。そこは完全な男尊女卑によるディストピアでした。
主人公のオブフレッドは、今では少なくなってしまった出産のできる女性で、〈侍女〉として身分の高い男性の子供を産むという役割を与えられています。それしか与えられていません。
オブフレッドたち侍女は言わば「産む機械」であり、読み書きの権利すら持たない下級階層に属する人間でした。
侍女たちの名前はof+男性の名前で、その男性の所有物であることが示されています。フレッドの、グレンの、ウォーレンの、という具合です。
淡々と、ときどき安定しない語り口で、オブフレッドの日常が語られていきます。信仰の文字はクッションに堅く縫い付けられ、希望の文字は墓石に刻まれ、愛はどこにもありません。(聖書の解釈を歪めた引用表現が文章の各所に散らばっています)
侍女の赤、〈妻〉の青、〈女中〉の緑と、女性たちの身分は服の色で分けられており、それが視覚的な効果をもたらしています。
オブフレッドは、静かな絶望に満ちた鬱屈した日々の中で、かつて夫と娘と暮らし、人並みの権利を持っていた時期を回想します。
彼女のかすかな希望は、どこかで生きているかもしれない家族と、脱走に成功した親友にありました。
十数年前とはいえ、「産む機械」発言は、私にとっては半信半疑です。少子化が進む日本で、女は何人産むべきとか、LGBTは生産性が無いといった政治家の発言が取り沙汰されますが(少子化の原因の本質がどうであれ)、生産性だけに焦点を当てた思想の行き着く先はまさにディストピアと呼べる社会なのではないかと。
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