ジャッジメント
人を殺した犯罪者に対し、被害者遺族による復讐が法で認められた世界の物語です。
急増する凶悪犯罪を抑止するために作られた復讐法が適用された場合、被害者またはその遺族の「選択権利者」には被告へ復讐する権利が与えられます。復讐を選んだ場合、被告が使ったのと同じ殺害方法による復讐が専用の施設で行われ、選ばなかった場合は通常の懲役刑が適用されます。被告に精神疾患があろうと同じです。
主人公は、遺族の復讐を見届ける応報観察官、鳥谷文乃です。
本作は五つの短編で構成されています。私が印象的に感じたのは「ボーダー」と、表題作の「ジャッジメント」です。
・「ボーダー」
吉岡民子は、深夜自宅の中で殺害されました。犯人は十四歳の孫のエレナです。
反省の態度を一切見せず、法廷でも問題発言を繰り返すエレナには二つの判決が下ります。少年院への送致と、復讐法の適用です。
主人公は選択権利者となるエレナの母親、京子を担当することになります。
親としてできる最後の教育だ。京子はそう言って何の迷いも無く復讐を選びます。その様子に主人公は違和感を覚えますが、何もできないまま応報観察官として復讐の場に立ち会うことになります。母娘は大きな誤解を抱えたまま引き裂かれようとしていました。
・「ジャッジメント」
三十一歳の女、森下麻希子は内縁の夫と共に虐待と育児放棄で五歳の娘ミクを殺害しました。二人に下ったのは懲役十三年の判決と、復讐法の適用です。
選択権利者として復讐を選んだのは、小学生であるミクの兄、隼人でした。
復讐は被害者が殺害された手口と同じ方法で行われます。法で認められたことではありますが、十歳の少年が実の母親とその恋人を餓死に追い込むという事実は世論を大きく動かし、復讐法反対運動はデモにまで発展しました。
いつ終わるとも知れぬ長い執行を見守るうち、主人公は隼人と心を通わせ、感情移入するようになっていきます。
一方でそのセンセーショナルな事実に変革を見出した人物もいました。
主人公は復讐の傍観者であるため、アクションは少なめで地味な存在です。名前が出てこないと性別すら分からないと思います。復讐法に対しては賛成も反対もせず、常に中立の立場にいます。それは作者の立場でもあるのかもしれません。
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