第12話 ダイヤモンドの涙

「わたくしは自分がなぜこの世に生まれてきたのか理由が分からないのです」

 ダイヤモンドさんは旅券を握り締めて窓の外を見ていました。額に垂れる黒髪の真下に円らな瞳がまたたいて、宇宙の闇の中にぼんやりと疑問を投げ掛けていました。

 ダイヤモンドさんの隣人保証人として星石車せいせきしゃに乗り込んだ僕は、その疑問に何も答えられず、黙って彼女の斜め前に座っていました。

 結晶構造の模様がうっすらと浮かんだダイヤモンドさんの透き通った瞳孔は、深い闇を思い切り吸い込んで不思議なほど輝いていました。

「闇の神様はわたくしたちに会って下さるでしょうか。こんなにつまらないことをお訊ねして、失礼にならないでしょうか」

 ダイヤモンドさんは独り言のように呟きました。

 のんびり生きている僕にとって、ダイヤモンドさんがなぜ自分の存在にここまで悩むのか、分かりませんでした。

 可憐で心優しく美しい、僕にとっては憧れとも言うべき人なのに、そういう人に限って自分を大切にしてくれないのはなぜなのだろうといつも思うのでした。

 僕たちの乗った星石車は闇の神様のお社に着きました。

「闇の神様……」

 ダイヤモンドさんが闇の神様に問い掛けをしようとすると、その問い掛けも聞かないまま、闇の神様は、

『ああ……』

 と声を漏らされ、僕たちに語り掛けて下さいました。

『ダイヤモンドさん、エメラルドさん、よく来て下さいました。ああ……なんと嬉しいことでしょう』

 闇の神様はお社からお出ましになり、黒い靄の姿のまま、僕たち二人を包んで下さいました。

『お二人とも、よくご覧になって下さい。あなた方はなんと美しいのでしょう。ほら、光り輝いていますよ』

 僕たちが向かい合ってお互いを見つめると、ダイヤモンドさんは無色透明の光を、僕は翡翠色の光を胸から放っていました。

『ああ……あなた方はなんと美しいのでしょう……。あなた方の光を汚せる者など誰もいないのです。こんなに美しい光を見せて下さるなんて、わたくしは嬉しくて、もう何も言葉になりません』

 そう仰って、闇の神様は長い間僕たちを包んで下さっていました。

 ダイヤモンドさんは、自分の光を愛しそうに抱き締めました。

 透き通った涙が円らな瞳に浮かんでいました。




※2019年10月に小説家になろうに投稿した作品です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る