第11話 祭りの幻燈

 祭りの提灯は僕たちをどこかへ導くように頭上に連なって灯っていた。

 僕たち五人は人波を縫って神社にお詣りを済ませ、砂利の境内に並ぶ露店を浮き足立って眺めた。

 女の子が三人に、男が二人。合わせて五人のグループだが、僕たちはここで二手に別れた。僕の男友達は黄色の浴衣を着た茶髪の想い人を追い掛けて、女の子二人組についていった。

 石灯篭の影に、僕と彼女が二人きりで残された。

 彼女は着飾ることに興味のない子だったが、僕たちと一緒に来た女の子二人が浴衣を着るので、彼女もそれに合わせて浴衣を着たらしかった。

 彼女の水色の浴衣には雨の波紋のような物静かな模様が浮かび、髪飾りの玉は天王星の色をしていた。眩しい露店へ駆けていく友人三人の背を見送る横顔は闇にすうっと溶けていきそうだった。

 彼女とどう接するのが正しいのか僕には分からないが、僕が缶コーヒーを買って彼女に渡すと、彼女は「ありがとう」と礼を言って大事そうに飲んでくれた。  

 僕が空になった缶を捨てに行こうとすると、「一緒に行きます」と言ってついてきた。石灯篭へ戻る途中でベビーカステラを買い、三人が戻ってくるのを待つ間、二人でつまんだ。

 感情を表に出さない彼女は冷たさの中に鋭い光を抱いているようだった。天王星の髪飾りか、横顔の瞳か、浴衣の下の胸の中か、僕にはよく分からなかった。

 祭りの光は炎のように燃え上がり、闇は染められ、人々は影になり、砂利は浮かび上がった。

 僕たちはベビーカステラが空になっても石灯篭のそばに佇んで、特に会話もなく三人を待った。

 時折人混みの中から割れるような歓声がわき、僕たちと同じ歳くらいの若者が団体ではしゃぐのが見えた。僕たちは宇宙に放り出された迷子のように、そのざわめきを遠くから見ていた。

 僕の体は蒸した。

「暑くない?」

 彼女に尋ねると、彼女は「大丈夫です」と返事をした。

「その浴衣、よく似合ってるよ」

 僕の口からそんな言葉が滑り落ちた。

 彼女は「ありがとうございます」と言うだけで、じっと遠くを見ていた。

 やがて友人三人が山のような荷物を両手一杯に抱えて戻ってきた。

 僕たちの祭りは静かに幕を閉じた。

 波打つ喧騒と提灯の連なりが、いつまでも夢のように、僕の記憶の海を漂っていた。

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