第4話 ポーション屋さんの朝

 窓から朝日が射し込んでキッチンは明るかった。私は長くなった髪を後ろで一つに結うと、篭を持って裏口から庭へ出た。

 真新しい日射しがポーション草の庭に降り注いでいた。私のふくらはぎほどの草丈で、庭一杯、溢れるほど元気に繁っていた。

 私はしゃがみこんでポーション草を指先で揺らした。まるで神様のお作りになった硝子細工のように、ポーション草の葉っぱは細い葉脈を浮かして、半透明に光っていた。私はその葉っぱを一枚ずつ摘み取っていった。心地のよい冷たさが指先に滲んでいった。

 篭一杯にポーション草を摘むと、私はキッチンに戻って葉を煮出した。煮汁は鮮やかな緑に染まった。

 棚から薬の瓶を取り出して、できたばかりのポーション液を注いでいった。

 力強い土と眩しい太陽に育てられたポーション草の薬は、生きとし生けるものの傷を癒やし、心を元気付けてくれた。

 ポーション液を注ぎ終えると、私はほっとして、ポーション草の庭を見た。

 朝日はポーション草を包み込み、ますます葉を強くした。

 まだ肥料はいらないだろう。水も必要ない。少し厳しく育てると、ポーション草の生命力は驚くほど漲ってくる。

 窓の外を眺めていると、玄関から常連のお客さんの声がした。

「先生、ポーションをもらいに来ました」

 私より少し年上の、気のいい青年だった。明るい笑顔で愛用の瓶を私に差し出した。私は空になっているその瓶を受け取ると、作ったばかりのポーション液をなみなみと注ぎ、彼に渡した。

「いつもありがとう。先生の薬じゃないと元気が出ないって、みんな言うんだよ」

 私は感謝の気持ちを込めて頭を下げた。

「うちでも自家栽培してみたんだけど、やっぱり駄目だよ。すぐに葉っぱが病気になっちまってさ。参っちまったよ」

「よかったらまた何でも訊いてください。お力になれることがあれば嬉しいです」

「ありがとう。先生がご指導下さるんならうちのポーション草も立派に育つよ」

 彼は目を細めてじっと私を見た。

「これ、家族みんなで大事に飲むよ。ありがとう。また来るよ」

「こちらこそ、いつもありがとうございます」

 彼を見送ると、私は調理台に立って、朝食の準備を始めた。

 卵を割って、フライパンで焼く。

 私の一日も、静かに始まったのだった。

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