悪逆無道

し〜にゃ♪ぺこねん

第0話 Prologue ~芥川詩子の場合

私は五人の名前を書いた紙を四つ折りにして部屋の中央にいる真っ白い男にそれを渡した。

真っ白い男というのは比喩表現でもなにもなく、来ている服だけでなく髪も肌も頭のてっぺんから足のつま先まで真っ白。

目を閉じて口をつぐんでいると本当に真っ白な存在。

その男は私から折った紙を受け取り目を静かに開いてそこに書かれている名前を見てちょっと驚いたような顔をした顔をして私を見た。

瞳の青、口の中のきれいなピンク色が見え、この男の体で白くない部分もあるのだと初めて認識した。

そして開いた口からピアノの音を思わせる澄んだ声が漏れた。

「君は本当にこの五人でいいのかね?」

若い男性の声のはずなのにどこか老人が語るかのような語感。

私がそこに書いた五人が私の思ったとおりの人物ならば、私にはこの五人だ。

この五人しか考えつかない。

「まあ、よかろう。ほかの六人ももうしばらくすれば書き終えるだろう。席に座って待ちなさい」

白い男の周りには、彼を中心に先ほどまで私が座っていたものも含めて七つの椅子が円状に並べられており、それぞれに私と似たような年齢の男女が座っていた。

そして彼らは紙にそれぞれ五人の歴史上の人物の名前を思い思いに、そして脳から絞り出すように書いていた。

これからの自分の運命を託すべき五人の名を。




話は一時間ほど前に遡る。


ふと気がつくと私は真っ白い部屋にいた。

部屋といっても四方には壁がなくただただ真っ白な空間。

そこには七つの小さな椅子が円状に並べられていた。

「好きな椅子に座り、そこに書いてある紙とペンを手にしなさい」

どこからともなく声が聞こえた。

その時初めてこの空間には自分以外の人間がいることに気づいた。

私のほかに六人。

男が四人、女が二人、そして私。

少なくともそこに私には見知った顔はいない。

特に声を掛け合うでもなく私たちは椅子に座り椅子においてあった紙とペンを手にした。

手にした紙は金の装飾が施された以外は全くの白紙。

ペンで何かを書けということなのだろうか?


「諸君」


声がしたので頭を上げると、そこには真っ白な男が立っていた。


「諸君にはゲームに参加してもらう」


彼は厳かにそういった。




彼の言うゲームとは、文明レベルでは私たちの言う中世に属する異世界に赴きその地を統一するというものだった。

その際に自分たちの望む五人の歴史上の人物をそれぞれに配下として与える、椅子の上に置いてあった紙とペンはその五人を記すためのものだった。

そして私を含めて七人で五人の人物の名を書いたら当然重複することもあるだろう、その際には公正に籤引きで決める。

私たちが書いた以外の人物も在野の士として各地に配置される。

勝者となったものには、一つだけ願いを叶えよう。

白い男の言うルールはこれだけだった。




んー、何というか歴史シミュレーションみたいな話だなあと思いながら私たちは紙に向かい合う。

自分たちの頭の中にある歴史上の人物を思い浮かべ試行錯誤を重ね紙に人名を書いていく。

そして、私たちが参加するゲームとはいったい何なのか。

ゲームと言うには勝利条件もあるのだろう。

異世界の統一。

これが勝利条件なのは間違いないが、これは単独で成し遂げないといけないものなのか、それともここにいる誰かと組んでの統一も勝利となるのか……。

そのあたりは何も言及されていない。

だが異世界とはいえ、ゲームとはいえ、人が住んでいるのであろう地を統一すると言うことは戦をすることなく行うことは難しいだろう。

つまり戦は発生する、必ず。

そしてその後にはその地を統治しないといけない。

私は考えつつも五人の名前を白い紙に書き終えた。



・松永久秀

・呂布奉先

・宇喜多直家

・ジョゼフ・フーシェ

・賈詡文和



残した悪名が故におそらくほかの六人と被ることもまずない、私が望むベストオーダー。

私は悪名とともに異世界に降り立つ。

これが私の選択だった。

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