道具がない

 特に問題もなくオリエンテーションは終わったし、早く家に帰って作戦を練らないと。

 明日からのことを考えるとやることが山積みだな。


 あかりが俺に話しかけようとしていたようだったが、今は正直時間が欲しい。

 何も気づかないふりをしながら、俺はまだ少しざわめいている教室から出る。



 ~~~



 入学式の後ということで今日の帰りはほとんど手ぶらだ。

 俺は朝から考えていた体力面の弱体化について考える。

 なんとなくぷにぷにの掌は見ていると、なんとも頼りなく思えた。

 そして今の俺の状態についていくつかの疑問が浮かんだ。


 単純に過去の体に戻ったのか?


 これは違う。そもそも俺はこの時期は中学まで野球をやっていたからすでに掌は固くなっているはずだ。


 体の大きさはどうだろうか?


 これは多分だけと「前の世界」の体と同じような気がする。

 ただ明らかに運動には慣れていないような気がする。

 気がするばっかだよな……。

 今の段階ではなにも判断材料がないから、とりとめのない思考がぐるぐるするばかりだ。


 ……そうだ。

 今から家まで走って帰ってみよう。

 力はどうなっているかわからないけど、持久力は少しわかるかもしれない。


 善は急げ。

 伊織は走った。

 走った

 …………走った。


 やばい。

 洒落にならない。3分位しか走ってないのにもう息が上がる。

 しかも下りで走ったからダイレクトに膝に衝撃が来る。

 これ以上走ったら故障につながるかもしれない。


 走っては歩く。

 走っては歩くのを繰り返してようやく自分の家についた伊織。


 これは一から体力トレーニングを始めないと駄目だな……。

 思った以上に体力がないことは身を持って確認できた。



 ~~~



 とりあえず明日の準備として野球用品を用意しとかないと。

 部屋を見渡すと「前の世界」にあったはずの野球用品が入っていた3段ボックスがない!


 ……。

 どうもこの世界の俺は野球をやってないらしい。

 もちろん薄々は感づいてはいたけれど、再確認できた。


 それはもう考えても仕方がない問題としても、流石に野球道具がないのに明日練習に参加するのはどう思われるだろうか。

だめだ。どう考えても冷やかしと思われるだろう。


 野球をするのに個人が用意するものはたくさんある。


 グローブ

 スパイク

 アンダーシャツ

 練習着


 最低限必要なのはこのあたりか?

 しかし揃える時間も金もない……。



 うわ。

 普通に道具一式揃えたら軽く5万は超えるしどうすっかなぁ。

 それにそもそも親の対応もどうなるかさっぱりわからない。

 おそらく運動を対してやってこなかった俺のためにいきなり野球のための道具を買ってくれるのか?

 なるようにしかならないけど、夕食の時に親に聞いてみるか。

 それから考えよう。


 今できることはとりあえずストレッチと簡単な筋トレかな。

 運動に慣れていない体だし少しでも鍛えておかないと……。


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