シェリーさんと(表情筋が)鋼鉄の旦那様
もなか
第1話 シェリーさんと旦那様
季節は、夏の終わりに差し掛かった。ここはメルリア王国。今日はこの国で、南の公爵家と北の公爵家の結婚式が行われる。
純白のウエディングドレスを着た少女が不安気に立っている。年は16歳。少女は美しいというより、妖精のような可愛らしさを持っていた。蜂蜜をとかした髪に、ミルク色の肌。そして、若草色の瞳。いつもは、ランランと輝いている瞳が、今日は不安げに揺れている。その目の前に立つ、不機嫌そうな顔を隠そうともしない青年が、彼女の夫になるからだ。年は21歳。青年は、精巧な人形のような容姿だ。白銀の髪に、苛烈な炎のような真っ赤な瞳。抜けるような白い肌。
「では誓のキスを」
その言葉を聞き、青年はさらに顔を歪める。
(お嫌なら、しなくても、いい、です…)
そう言おうとした、その瞬間。バサッと白いベールを粗雑に上げられた。驚き、顔を上げると…。柔らかいものが唇に触れた。しかし、それも一瞬。すぐに離れた。それから、青年は少女の事を見ようともしなかった。
青年の名は、グレイ・フラント。
少女の名は、シェリー・シルベリア…いや、今日からはシェリー・フラントだ。
不器用な二人の鈍足歩行恋物語、
はじまりはじまり―…。
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