第91話 自分から


上山くんが去った後、重たい空気のまま解散となり、

僕は大村くん、町村さんと一緒に池崎くんを病院まで連れて行った。

池崎くんの怪我は幸い大したことはなく、ただの捻挫だった。

池崎くんは念のため病院で借りた松葉杖をついて歩いていた。


「なんか上山さんのことで暗くなっちゃいましたけど、

 児玉さん、今日は大活躍でしたね!

 俺、めちゃめちゃ興奮しちゃいましたよ」

「そうそう。俺も絶対落ちたと思ったのに、児玉さん捕ってくれて助かりました」

池崎くんと大村くんが二人して僕のプレーを称えてくれた。

「私も嬉しくて泣いちゃいました」

町村さんが満面の笑顔でそう言ってくれた。


「でも、その前にエラーしちゃってるからね」

僕がそう言うと、池崎くんが

「そんなの帳消し帳消し。その後、ちゃんと二つアウト取ったんですから」

池崎くんは松葉杖を逆さにしてマイクに見立てて僕に向け

「児玉選手。今のお気持ちはいかがですか?」

「僕はただ、夢中で・・・。上山くんが声掛けてくれたおかげだよ」

僕がそう言うと、また空気が少し重たくなってしまった。


「痛てっ」

池崎くんは松葉杖を元に戻すとき、足をついてしまった。

「大丈夫?」

僕がそう言うと池崎くんは

「大丈夫です。すみません。痛てっ。

 それより上山さん、やっぱり戻ってこないですかね」

「うん・・・。僕、もう一度、声掛けてみようと思ってるんだけど・・・」

「児玉さん。それは止めておいた方が良いと思いますよ」

大村くんが割って入った。

「上山さんが自分から決心して戻って来るくらいの気持ちでないと、

 きっとまた上山さん自身が辛い思いをすると思います」

確かに大村くんの言う通りかもしれない。

僕はどうすれば良いんだろう・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る