第82話 無我夢中


きたっ!!

今度こそ捕ってやる!

ここまで頑張って投げてきた大村くんのため。

怪我をしてまでチームのために頑張った池崎くんのため。

チームのため、応援してくれる町村さんのため。

そして、エールを送ってくれた上山くんのため。


打球はハーフライナーでライトのかなり前方へ来た。

捕れるか捕れないか微妙なところだった。

でも僕は迷うことなく全力で前進した。

というよりも体が勝手に走っていた。


「児玉!無理するな!」

高坂くんの声がうっすら聞こえてきた。

でも僕にはその声は届いていなかった。

僕は捕れると思った。何としても捕りたいと思った。

そして無我夢中で走った。


1塁ランナーはハーフウェイ。3塁ランナーはタッチアップ体制。

そんな状況も全く見えていなかった。

僕はただ、打球を捕ることだけに集中していた。


「捕れ!児玉!」

上山くんの声がうっすら聞こえた。

僕はただボールだけを見て走っていた。

ボールが落下してくる。

届くのか、届かないのか、そんなことは考えずにとにかくボールに向かって走る。

ただ捕れると信じて。


ボールと僕の距離が近づいてくる。

ボールは徐々に高度を下げ、落下してくる。

僕は全力で走ったまま、グローブを出した。

ボールが地面につく寸前。

ボールは僕のグローブに収まった。

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