第80話 あいつはあいつだ


「上山・・・」

意外だった。

上山はもう野球に切りをつけたのだと思っていた。

ましてや児玉にあんなことを言うなんて、思ってもいなかった。

やっぱり上山は野球が好きなんだ。


「松島さん」

大村に呼び掛けられるまで、オレは上山を見つめていた。

「上山さん、あんなこと言うんですね」

「ああ」

「おかげで少し、児玉さんの緊張も柔らだかもしれません」

「だと良いけどな」

大村の言う通り、児玉の表情が少し変わったように見えた。


「さっきのは俺の失投でした。すみませんでした」

「おう。少しコントロールが甘くなってきてるな」

「はい」

「でも基本方針は変わらずだ。光南は恐らくライトを狙ってくる。

 それなら、こっちはライトに打ちにくい球を投げる。

 児玉がどうこうは別としても、それが相手を押さえることになる」

「はい。俺もそう思います」


高坂がライトから戻って来た。

「どうだ?児玉は」

高坂は複雑な表情を浮かべている。

「なんだかはわかんねぇけど、上山のおかげで大分、緊張が解けたみたい」

「そうか」

「上山、一体どうしたんだ?」

高坂が不思議に思うのも無理はない。

高校に入ってからの上山しか知らない奴からすれば、

上山があんな行動を取るなんて想像すらできなかっただろう。


「あいつは、あいつだ。いずれわかるさ」

オレがそう言うと、高坂は判然としない様子で上山を見ていた。

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