第76話 正念場


オレは光南学園のベンチを見た。

金子たちのヤジを聞いて、明らかに監督が何か指示を出している。


「マズいな」

「ええ」

マウンド上でオレと大村が話合っている間も、

アイツはずっとグローブを叩いていた。

気合いが入っているようにも見えるが、明らかに冷静には見えない。

「あいつ、完全に舞い上がってるな」

「そうですね」

「なるべくライトには打たせないようにした方が良さそうだな」

「はい」


ファーストから高坂がボールをコネながら近づいてきた。

「高坂。なるべくライト方向へは打たせないようにするが、

 もしものときは打球指示とフォローは頼んだぞ」

「おう」

高坂はそう言うと、大村にボールを渡し、大村の肩をポンポンと叩いて、

ファーストの方へ戻って行った。

さすがは高坂だ。すべて理解してくれているようだ。


「大村。正念場だ。頼むぞ」

「はい!」

オレは大村の肩を叩き、ポジションへ戻った。


バッターはよりによって4番。右打者なのがせめてもの救いだ。

オレは大村にサインを出し、インコース低めを要求した。

大村はセットポジションから、インコース低めに投げてきたが少しコントロールが甘い。

バッターは強引に流し打ち。一塁線ファウル。

これではっきりした。明らかにライトを狙っている。


続く2球目。オレはまたインコース低めを要求。

大村も疲れが出ているのか、やはりコントロールが甘い。

バッターは今度は体を大きく開き、またしても強引に流し打ち。

打球はライトへ飛んだ。

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