第65話 本当にやりたいこと


「止めろよ」

高坂くんは慌てて僕を抱え起こした。

「わかったよ」

「ほんと!!」

「ただ、俺だけで決められることじゃないからな。

 野球部全員とハンドボール部全員が認めてくれたら、

 とりあえず秋の大会は出るよ」

「やったぁーーー!!」

また廊下中の生徒全員が僕たちの方を見ていた。


放課後、僕と高坂くんはまずハンドボール部が練習する体育館に行った。

「なんだよそれ!」

「そんなのありかよ!」

「こっちだって大会近いんだぞ!練習はどうすんだよ!」

案の定、ハンドボール部の部員たちから、驚きと不満の声が飛び交った。


「みんな。待てよ」

ハンドボール部のキャプテン三上くんだ。

「高坂。お前、本当は最初っから野球やりたかったんだろ?」

「最初はそうだけど、今はハンドボールも好きだし、

 みんなを裏切りたくはないんだけど、こいつが土下座までして頼むから・・・」

「こいつのせいにして、本当はお前自身が野球やりたいんじゃないのか?」

僕は慌てて割って入った。

「そんなことないよ!高坂くんには何度も断られたんだ。

 でも僕が無理矢理お願いしたんだ!」

「そうか。まぁ、どっちにしても俺達にお前を止める権利なんてないさ。

 お前の好きにしろよ。お前がやりたいことをやれば良いさ」

「三上・・・」

「さっ!練習始めるぞ!」

他の部員たちは、もう何も言わなかった。

三上くんは高坂くんの気持ちをきちんと理解してくれていたんだと思う。


僕と高坂くんが体育館を出ようとしたとき、

「高坂!ハンドボール部に戻ってくるなら、いつでも歓迎だ!」

「三上・・・すまない」

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