第64話 戻ってきて欲しい人


「はぁーーーーーーっ!?」

叫び声が廊下中に響き渡り、廊下にいた生徒全員が何事かとこちらを見ている。

叫び声の主は高坂くんだ。

僕は高坂くんに野球部に戻ってくれるようお願いをしに来ていた。


「だってお前、せっかくレギュラーになれるんだろ?」

「うん」

「だったらお前が出れば問題無いだろ?」

「でも・・・」

「それに今更、どの面下げて戻れって言うんだよ」

「それは大丈夫だよ。みんな歓迎してくれるよ」

「いや、歓迎してくれるとかそういう問題じゃなくて」

「だって高坂くんだって、本当は野球やりたいだろ?」

「そりゃあ・・・」

「僕じゃダメなんだ。チームが勝つためには」

「そんな・・・。お前だってずっと頑張って練習してきたんだろ?

 せっかく試合に出られるチャンスなのに」

「実力で勝ち取ってもいないのに、試合に出たって意味ないよ」

「児玉・・・」

しばらく沈黙が続いた。高坂くんも心が揺らいでいるようだ。


「やっぱ無理だよ。ハンドボール部のみんなを裏切れねぇよ」

「ハンドボール部のみんなには僕からもお願いしにいくから」

「でも・・・」

「今度の秋の大会だけ助っ人で出てくれるだけでも良いんだ」

「そんなテキトーなことできねぇよ。野球部の連中にも申し訳ないし」

「そんなことないって。みんな喜んでくれるって」

「ハンドボール部の練習だってあるんだぞ」

仲間思いの高坂くんからすれば、当然の答えだった。

でも僕はどうしても高坂くんに戻ってきて欲しかった。


「この通り!頼むよ!高坂くん!」

僕はなりふり構わず、土下座をしていた。

廊下中の生徒全員がまた僕たちに注目していた。

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