第4話 決断

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 ナインテールの父親はタウロスの言うとおりに村長に娘が病気になったと嘘をつきつつベッドで休ませることに成功していた。

 タウロスが村に戻ってきたときには、少女の魔力によって支えられたエネルギーで豊かに暮らす村人達の姿があった。ある者は水道から水を汲み、ある者は電力で煮炊きをしていた。

 この村の人々は、自分達が使っているエネルギーが少女の犠牲によって成り立っていることを知らない。村長のカラクリ技術の力で成立していると教えられていたのであった。

 タウロスが村長の宿屋に戻ってくると、昨晩怒声を上げていた村長が猫なで声で彼を出迎えた。

 「これはお客人、どちらに行ってらっしゃったのですか」

 「ちょっと村の周囲を散策していただけだ。もう少し休んだら荷物をまとめて出て行くよ」

 「さようでございますか。どうぞごゆっくり」 

 人間には誰しも裏の顔がある。村長も同様に村人には見せない、少女にしか見せない裏の顔があった。

 「タウロス殿」

 ナインテールの父親が、息を切らしてタウロスに呼びかけた。彼のそれに応じ、ハーピーの毒から作った薬の入ったビンを見せた。

 「これが、娘を救う薬ですか」

 「そうだ。それを飲めばナインテールは魔力が大幅に抑制される。解毒剤さえ飲まなければ効果は永久に続くはずだ。といっても解毒剤の精製には聖龍の血液が必要で、一般人にはとても入手できないだろう」

 「ではこれで娘は救われるんですね」

 タウロスはうなづいたが、その後に「だが本当にそれでよいのか? この村が不自由することになるし、もし村長にその事が知られたらあなたの命も危ないぞ」

 「危険は覚悟の上です。この薬を飲ませたら、娘を連れて村を離れるつもりです」

 「そうか、それじゃあさっそく彼女に薬を飲ませよう」

 タウロスは父親の導きで少女が休んでいる宿屋の離れにある小屋にやってきた。そしてタウロスは初めて少女と瞳を合わせた。

 「お父さん、その人は誰」

 「愛しのナインテールや、お前を救ってくれる人だよ」

 「通りすがりの旅の者だ。タウロスという」

  挨拶もそこそこに、タウロスは調合した薬を取り出し、少女に近づくと、口を開けさせ、薬を飲ませようとした。

 「これは何」

 「キミを救う薬だ」

 「私を?」

 「大丈夫、人体に害はないからね。」

 タウロスは少女に薬を飲ませた。すると少女の体の丹田から放出されていた魔力がみるみると弱まっていくのをタウロスは感じた。

 「これでよし」

 「ナインテールや、お父さんと一緒に旅に出よう。この村から離れるんだ」

 「どういうこと? 私はどうなったの?」

 「苦しみから解放されたんだよ」

 「そう、・・・少しだけ、嬉しい」

 ナインテールの父は彼女を力強く抱きしめた。その様子を見つめるタウロスはとある懸念を抱きつつも、今は優しい眼差しを二人に向けていた。


 村を後にするタウロスを、少女の父親は入り口まで先導した。

 「タウロス殿、本当にありがとうございます」

 「本当にこれでよかったのか」

 「はい、後悔はしていません。後は娘を連れてここを離れるだけです」

 「よかったら俺も暫く付いていこうか?」

 「いいえ、そこまでしてもらうわけには参りません。どうぞご自身の旅をお続け下さい。」

 「そうか、わかった。達者でな」

 タウロスはナインテールの父親に手を振りながら村を後にした。

 万事うまく行った。

 あとはあの親子が無事に村を出られることを祈るだけだ。

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