幼女人形

伊可乃万

第1話 ネウロの村で

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 東の空へ鈍行する分厚い雲を目印に、戦士タウロスは草原を歩いていた。魔王級と呼ばれる怪物たちを討伐するため冒険の旅をしているタウロスであったが、もう三日も食わずで歩き続けている彼の体力は限界に近く、近くに宿場町でもあればそこで暖を取ろうと考えていた。

 丘の上に差し掛かったとき、タウロスの視線に黙々と天空へと誘われて行く煙が入った。

 あそこに村がある。少しそこで休んでいこう。

 タウロスは酷使した足を労わりながら丘を下り、村へと辿り着いた。村の入り口で、住人に声を掛けられる。「ここはネウロの村です。ようこそおいでくださいました英雄様」。銀色の甲冑に身を包んでいたタウロスを見て、住人は彼が旅の戦士だと想像するのには何の違和感もなかった。

 「この村に宿屋はあるか」

 タウロスは村人の女性に尋ねると、ひときわ派手な外装の建物を指差して「村長の家が宿屋をかねております。村長の家はあちらにございます、英雄様」と言って彼を案内してくれた。村の中は質素な雰囲気には似つかわしくないほどに電飾に溢れ、明るかった。しかしよそ者を見る目は冷たく、道端で座り込んでいた老人は念仏のように何か呪いめいた言葉を放ち続けていた。

 何だか薄気味の悪い村だな。

 それがタウロスの第一印象だった。しかし所詮通りすがりの地。数日の辛抱だと自分を納得させ、タウロスは案内されるままに村長の家に入った。


 「どうも、いらっしゃいませお客人。私がこの村の村長です。」

 村長直々のおもてなしにタウロスは一瞬戸惑った。縦じまの服に恰幅のよい体つき、栄養状態は良好そうな壮年だったが、笑い皺に棘があるのをタウロスは見逃さなかった。

 「当店は始めてのご利用ですね。お泊りですか、それとも休憩ですか?」

 「泊まりで頼む」

 「かしこまりました、一名様、お泊り。客室にご案内っ」

 宿屋の主人である村長の呼び声に導かれるように、一人の幼い少女が通路からやってきた。ぼろぼろの布の服に身を包んだ少女を見て、タウロスは眉をしかめた。この宿屋の使用人か、あるいは娘か。別にどちらでもタウロスにとっては影響は無いのだが、彼女が発する微量の魔力に気が付いたタウロスは少しだけ警戒心を顔に出した。

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