カナリア・オーヴァドライヴ
もにょもにょ
序章
▶︎待機
スマホでスクショしておいた情報サイトの記事を確認。
内容は映画「さよならミリバール」の主題歌を歌った
ホームボタンを押し、ウェブブラウザのアイコンをタップ。
今日の番組表を検索し放送時間を確認。
地上波で日本時間二十一時の映画枠。
今日五度目の確認。
スマホの液晶は、放送予定時刻のきっかり二時間前。
朝から準備を整えた六畳間は、以前私が訪れた時から驚くほど変化がない。
定期的にここに来て雨戸を開け換気をしたり、掃除はしていたので、あの時既に年代物という風情だった平屋の文化住宅にしてはシロアリに喰われたり
もちろん全てが以前と一緒ではない。
一番は、この部屋の
その代わり、薄っぺらい百インチの有機ELが昨日から大きな顔をしている。
テレビを梱包していたスタイロフォームの無機的な匂いが、畳の部屋に馴染まない。
部屋に馴染んでいない。
そう、感じる。
『私』と主観的に認識される情報体。
それを久しぶりに流し込んだこの肉体のように。
やはりこの部屋にはブラウン管の十七インチが似合う。
青白く光る有機ELが夕方の部屋の中で唯一の明かり。
画面の中では百近くの人間と呼ばれる魂の
表情筋と肢体を忙しく動かす
両手をバタバタさせ、突っ伏し、吠え、派手に動き回るそれらを網膜で受光し続ける。
煩わしいので音を消している。
だから、何をしているのか正確に判別するための情報は乏しい。
ただ、こちら側から見れば全く無価値なその行動が、それら肉体の内にある魂という情報体を変化・精錬させているわけで、それは我々にとって好ましいことではあった。
網戸から入る夕暮れの風は涼しく、ひぐらしの声を室内へと運んでくれる。
気付けば畳の上に投げ出した両足の親指同士を際限なく擦り合わせていた。
退屈を感じている自分を発見して、少し笑ってしまう。
人間の決めた二時間という尺度を長いと感じているのだ。
これだから、肉体は。
結末を確認するまでに、この星が恒星を四十五周するまで待った。
この惑星の総周回数四十五億分の、四十五。
大凡一千万分の一。
こちら側からしてみたら、無きにも等しい数字。
けれど、地上に発生する様々な
人間と呼ばれる
魂を現在進行形で
国家と呼ばれる
例えばバスはワンマン化がほぼ完了し(但し何事にも例外はある)、地上波は新たに出てきた動画配信事業を前にかつての影響力は見る陰もない。
ずんぐりした電球の化け物みたいなブラウン菅は、味気ない薄っぺらなものに取って代えられた。
音声などの記録媒体に必須だった回転運動も今は懐かしいものとなった。
場所は同じとは言え、惑星の四十五回転前と現在が同一の存在だと認識するには、埋められない差異がそこには横たわっている。
これは、我々の存在から見れば
地球の時間軸では四十五周前という今を基準にして見れば異世界で起きた魂の
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