20 おしまいの話

 おはよう。……どうやら僕の仕事は今日でおしまいみたいだ。その顔を見ればわかるよ、毎日君と話してきたからね。ちょうど二十回めか。じゃあ、今日は――あなたの話をしようか? 笹貫透さん、あなたの話を。


 そう、そこにかけて。コーヒーも用意しよう。何も変わらない、いつも通りの時間だ。そわそわしてる? それとも、震えている? ……大丈夫、僕は君と話しかしない。この部屋にいるあいだは、僕は君の話し相手で、君は僕の話し相手で、ほかの何者でもない。今日は時間を決めない。だから君は心が決まるまでここにいていい。胡散臭そう? 信用ないかなあ、僕は。違う? そう、うん、ありがとう、信じてくれて。


 え? ああ、いやそれは違うよ。僕は普段は……たとえばこんなふうに君以外の誰かと話すときは、ちゃんと誰々さんと呼ぶよ。ただ君は、――どちらなのか判別しづらかったし……名前はとても強力な自己認識を与えてしまうから、あえて呼ばないようにしていた。でも今日は呼ぼう。誰かの名を呼ぶ行為は大事なことなんだよ、僕にとっても、君にとっても。


 笹貫さん、あなたは……とても大事にしていた恋人がいたんだね。そう、ふふ。イエスは頷く。偉いね。……その恋人が、ほかの誰かにとられそうになった。イエス。だからあなたは殺した。イエス。川縁かわべりで――夢の内容から察するにどこかで口論になった末、川に来たのかな。イエス。そしてあなたは相手を川に沈めた。――イエス。

 ……思い出してしまった? 大丈夫、落ち着いて。ここには僕しかいない。僕と、笹貫さん、君だけしか。

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