16 薬の話

 ……薬、きちんと服用してる? ああ、おはよう。うん。ごめん、藪から棒に。君に会うのもこれで十六回めだ。それでもう一度聞くよ。薬は毎晩飲んでいる? ……イエスは頷く。そう、そうだね。……。……いや、この話は、うん、やめよう。話、変えようか。夜は眠れてる? そう。ならいいんだ。


 え、夢を見るか? 僕は……あまり見ないなあ。気づいたら朝、っていうのが多くてさ。君は、見るの? もしかして、それは最近? 夢の話、聞かせてくれる? もちろん、君さえよければ。


 うん。うん。……つまり、君は水気のある場所を死にものぐるいで走っている、と。気持ち悪いものに追いかけられている? なるほど。ほかには? よくわからない。はは、夢なんて誰しもそんなものだよ。あやふやな夢を見るのは君だけじゃない、安心して。


 ……いくつか質問してもいいかい? ありがとう。走っているのはいつも田んぼのそば? そう、うん。湿気を感じる。暗い。田んぼそのものは見えないんだね。じゃあ、気持ち悪いもの、って、姿を見たことはある? ない。それはおばけとか幽霊のたぐいなのかな? わからない? え? なんとなくで構わないよ、君のセンスで。意思があるように感じる? という、意思? そう、そっか。ありがとう。今日はおしまいにしよう。ゆっくり休んで。薬は忘れず飲むんだよ。

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