見えるだけの塔
金星人
白い塔
ある日の午後。今日は特に仕事も抱えていないので、ダージリンを一杯入れて中々読み進められない文庫本をお供に書斎でのんびりと過ごす。さほど興味のある内容ではないことも確かだが、ここまで読み進められないのはやはりあの塔のせいだろう。マンション最上階にある私の部屋から見えるその塔は真っ白で小高い丘の、綺麗に生え揃った芝生の上に建っていた。
「いつから在るのかも分からないし、なんの為に造られたのかも聞いたことがない。
何かの会社なのだろうか。しかしそれなら建物の何処かに看板が出ているはずだがそれも見たことがない。」
日頃から気になっていた為、同僚に話の流れで聞いたこともあった。
「この近くの丘に白い塔が建っているだろ? あれって何か知っているか。」
「いや、知らんなぁ、確かに見たことはあるが。」
「白い塔? そんなものは覚えてないなぁ」
とまぁ、毎回空振りの答えしか得られない。
一体なんなのだろう
その塔を部屋の窓越しに眺めながらぼぉっと考えてしまう。
確かに本は読み進められないのだがその景色はとても心地がよくいつまでも眺められた。
しかし気になったことは自分なりにでも調べたくなってしまうものだ。
「よし、今日は試しに行って入ってみるか。そうすれば何か分かるだろう。」
私は飲みかけの紅茶を飲み干し、早速家を出た。
白い塔のある丘は川の近くにあり、その川の上にかかる橋を渡ればその丘に辿り着ける。
「着いた」
すぐに入り口を探し、中の受付とかでここが何の建物なのか確かめたらすぐ帰ろう。そう思っていた。
「あれ?」
塔を一周したのだが入り口らしきものがない。
どうにか入ってみたいのだが
「良くできた建物なのだろう。入り口が綺麗に壁に組み込まれることで塔自体の見栄えを良くしているのかも知れん。」
そして手で伝って確かめようと近づくと私は倒れてしまった。見えない何かにぶつかったようだ。恐る恐る右手を伸ばすと確かに先程ぶつかった箇所を通り過ぎている。
気のせいか。
そう思って歩きだした瞬間、また何かにぶつかって跳ね返された。
それから同じようなことを何度も繰り返した。左手を突っ込んでみるとやはり入るが体全体は駄目。今度は場所を変えて足を突っ込んでみて入られそうだ、と思わせといていざ踏み込むとやはり跳ね返される。顔からでも駄目。肘、膝と試すがやはり同じ。
よし、これならと尻をゆっくり突っ込んで入ったと思ったらさっと背泳ぎの飛び込みのように頭からっ!
ゴツンッ!
いてぇっ!
数年ぶりに立派なたん瘤ができた。それを優しく撫でながら先の自分の姿を想像して恥ずかしくなる。
「しっかし、一体なんなのだろう。まるで入る為の糸口が分からん。」
何をやっても入りそうで入れないのだ。
途方にくれているとなんと塔の裏側から人影が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます