第3話「ザ・ガール」

  

「甲虫タイプのジェムよ!!」

「なんだ、甲虫か」


 確かにケイゴの言う通り、甲虫タイプのジェムは大した脅威ではない。しかしだからといって油断するのは、彼ケイゴの悪い癖であろう。


 ガッカ……!!


 先手必勝とばかりに機銃を一斉射させるレーナ、彼女の判断もまた正しいとは言えるが。


「危ないだろ、レーナ!!」


 見知らぬ少女を抱えている、アルムの事を考えてくれているとは言えない。急いでミッダームの内部にと入り込もうとしているアルムを尻目に、レーナのミッダームはその機銃をもってして一匹のジェムを破砕した。


「もっといるわ!!」

「手伝うぞ、レーナ!!」

「オーケー!!」


 ケイゴもまた、そのジェムの方向に機体正面を向け、機銃の照準を合わせる。ターレット式でない旧式が為に、ミッダームはわざわざ方向転換をしなくてはいけないのだ。


「おとなしくしてくれよ……」

「ジェム、確認だけでも六匹!!」

「そうかい、レーナ!!」


 甲虫型のジェム、以前に戦った蟻型とは違い、せいぜいその鋭い牙をもってしてミッダームの外装甲を傷つける事しか出来ないのだが、それでも駆除するのはアルム達警備隊の役目である。


「記録装置で、俺達の行動は筒抜けだからな……」


 少女を自らの脇にと横たわらせ、全体的な機体接続型のパイロットスーツ、それのミッダームへの接続を終えたアルムは、常にこのスーツを着けたときに感じる、何とも言えないむず痒さを感じつつに。


「敵の数、多いな……」


 ケイゴ達の戦っている、甲虫達にと機銃の照準を合わせる。無論に機体を旋回させてだ。


 フゥア……


「くそ……」


 PMのパイロットスーツは下着すら着ける事を許されない。鋭敏な感覚となっている身体が少女の柔らかな肉体に触れたときに感じた股間への感覚を疎ましく感じながら。


「女が受けるセクハラってのは、こんな気持ちなのか?」


 アルムは機銃を甲虫達へと撃ち放つ。記録装置によって「この手の」搭乗者の生理反応でさえ記録され、減点の対象となってしまうのが警備隊、ガードという仕事なのだ。


「これでとどめ!!」


 どうやら、アルムがややもたついている内に甲虫型のジェムは全滅したようだ。レーナの喝采を上げる声が、通信機越しに聴こえる。


「レコードは録った、ケイゴ」

「大丈夫、上官にも文句は言わせないよ」

「なら、良いけど……」


 このミッダームも機銃の弾薬も支給品だ、使用用途を常に報告する義務がガード達にはある。


「あの隊長、うるさいから……」

「おおい、レーナ」

「何よ、アルム?」

「早く帰って良いか?」

「ああ……!!」


 そこまで言って、ようやくレーナとケイゴは少女の事を思い出したようだ。二人の機体がそのまま脚を動かし。


「そうだな、帰還しよう」


 先に向きを変えたアルムのミッダームに続いて、その蜘蛛型の機体をシティにと帰還させる。




――――――




「ねえ、本当に」

「ん?」

「隊長に報告しなくても良いの?」

「言って、どうなるんだ」


 寂れた部屋のベッドにと横たわる少女、今では何の光も発していない彼女の姿を見やったまま、レーナは。


「研究材料になるだけだぞ?」

「惚れたの、ロリコン」

「うるさい」


 薄くアルムに笑いかけたまま、隣の部屋にと行く。恐らくはパイロットスーツを脱ぎにいくのだろう。


「まだ、そっちの部屋はケイゴの奴が使っているぞ」

「あら、そう……」


 ドアノブに手を掛けたレーナであったが、そのアルムの言葉に肩を竦め、再び先程まで座っていた椅子にと腰を掛けるレーナ。


「とっとと、このむさ苦しいスーツから着替えたいんだけど」

「少しはこの子の心配でもしてやれよ……」

「やっぱり惚れたんだ」

「バカ野郎……」


 僅かにククッと笑いながら、ショートにしてある自身の栗色の髪へと手をやるレーナ。その時。


「う、うん……」


 ベッドの上にと横たわっていた少女が、少し苦しげな声を出したすこし後に。


 ガバァ……!!


「お腹すいた……!!」


 その上体を大きく反らして、アルム、レーナ達の顔を見やる。


「何かない!?」

「な、何かと言われても何だよアンタ……」

「蜜とか、何か甘い物!!」


 突然の少女の物言いに、アルムはレーナにと無言の視線を送り助けを求めたが。


「とりあえず、固形レーションでもあげてみたらぁ?」


 と、つれない返事だ。

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