異世界に召喚されたら魔王サマの妻になりました

高岡未来@9/24黒狼王新刊発売

プロローグ

 ろうそくの炎が作り出す無数の明かりの中。大広間の中心には男がいた。彼の足元には図形と文字を組み合わせた幾何学模様が描かれている。

 やおら男が口を開く。


「はじめる」


 彼は床の上に手をかざした。

 すると床の上に描かれた円や三角や文字を重ねた複雑な模様が輝きだす。男の力に反応して、暗い部屋に光が浮かび上がる。


 光は徐々に力を増していき。

 そして。


 異世界との扉が目の前に開かれた。


  ☆★


「ん? いま、何か聞こえたような……?」


 菜花青空なばなそらは住宅街の真ん中で立ち止まる。

 なにか、声が聞こえたような気がするが。と、あたりをきょろきょろ見渡すが誰もいない。


「気のせいかな?」


 青空は持っていた買い物袋をよいしょっと持ち直した。


「うーん……それにしてもちょっと、買いすぎちゃったかなぁ」

 

 青空は袋の中身を覗き見る。ずっしりと持ち手が手のひらに食い込むくらいに重たい袋の中身は全てが砂糖。いろいろな種類の砂糖が何袋も入っている。

 最寄り駅のスーパーのポイント十倍とキャッシュレス決済ポイント還元のダブルなお得さにつられてしまった。


 青空は地面を見下ろした。

 なにか、今明るくなった気がした。いや、今はまだ午後三時。明るいのは当然なのだが。


 いや、しかし。

 地面が光った気がした。


 青空は立ち止まってもう一度コンクリートで覆われた地面を見つめた。何の変哲もない道が続いている。


「気のせいかな」


 一人納得した時。

 今度はぱぁぁっと青空が今まさに立っている下が輝き始めた。


―我らが元へ来い。……―よ……―


 ふと、耳元に知らない男の声が届いた。今度は鮮明に聞こえた。知らない人の声だった。


「えぇぇっ?」


 驚く間もなく青空は目も開けていられないほどの光に全身を包まれた。突然のことに驚き、青空は手にしていた砂糖入りのビニール袋を落とした。


 包まれた途端に浮遊感に襲われた。地に足をつけていたはずなのに、青空の靴は何も踏んでいない。一瞬の眩しさから目を閉じてしまった青空だったが、自分に起こっている摩訶不思議な感覚に目を開けた。


 見慣れた住宅地があるはずだったのに、目の前は暗く何もない。


 それもつかの間。

 足元に浮かび上がる不思議な円い円陣がチカチカと何度か光り、その後。

 気が付くと青空はまったく見知らぬ場所に立っていた。

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