第2話 G.B.H. Time Bomb?

 先日、家族で、リニューアルオープンした大型ペットショップに行って来ました。いやぁ、混んでいました。インフルエンザが流行し初める師走。人混みの中を歩くときには、気を付けなければいけませんね。恥ずかしながら私は既になりましたけれど……。自慢にもなりませんね。家族みんなマスクをしっかり着用してお店に入りました。


 可愛い子犬や子猫、癒されますねぇ。無邪気にピョンピョン跳びはねている姿は、見ていて飽きません。他にも熱帯魚や昆虫、爬虫類等々……。生き物好きの我が家族は、楽しい時間を過ごすことができました。


 ペットショップを後にして我が家族は、以前からお気に入りのジェラート屋さんに行きました。師走の寒い時期にも関わらず、ひっきりなしにお客さんが来るので、人気のお店なのでしょうね。私はいつものように、このお店の看板メニュー、ハチミツがけのミルクジェラートを注文しました。もちろん味は最高です。冬季限定のサービスのようですが、昆布茶か、唐辛子入りの昆布茶がいただけます。ジェラートで冷えた体を暖めて下さいというお店の心遣いですね。うれしいサービスです。私は唐辛子入りの昆布茶をいただきました。


 ――おそらくこの時に、私のお腹の時限爆弾が起動し始めたのだろう……。


 帰路の途中、日も暮れていい時間なので、夕飯を食べて帰ろうということになりました。子供達がラーメンが食べたいと言ったので、以前訪れたことのある豚骨ラーメンのお店に行くことにしました。味が最高なのはもちろん、店員さんの対応も良い、リピートしたくなるようなお店です。


 店内に入ると、すでにお客さんで席が埋め尽くされていましたが、夕飯の時間にはまだ早いせいか、それほど待たずに席へ座ることができました。店内は食欲をそそるラーメンのいいにおいで充満していました。待ちきれません。注文をして、今か今かと待つ時間が、どれほど長く感じられたことか……。ラーメンが席に運ばれると、待ってましたとばかりに、パシッと割りばしを割き……。


「いただきます!」


 まずはレンゲでスープを一口……。美味い!続けて一心不乱に麺をすすり……。美味すぎる!


 やはりここの豚骨ラーメンは最高です。そして忘れてはならないのが、トッピングのおろしニンニクです。これを入れると更に味が引き立ちます。ニンニクは健康に良いですよね。通常私は、容器に付属するさじで二杯ほどの投入なのですが、年末の仕事の忙しさからか、だいぶ疲れがたまっていたので、ここらで一丁、パワー回復だぜっ!と、言わんばかりに、いつもより多めに入れました。さじで五杯!これがいけなかったなぁ……。


 子供達もパパに続けとばかりに、おろしニンニクを入れ始めました。「オイオイ、入れすぎるとお腹壊すぞ。ハッハッハ……」なんて、お父さんぶって言った、この私が、後の悲劇、否、喜劇?の主人公になるとは……。


 お店を後にして道路に出ると、突然、お腹がギュウゥと絞られるように痛くなってきました。お腹の非常事態です。ヤバイ……。これは家までもたないゾ……。車の中でウ○コが爆発したら大惨事です。焦燥感とともに、脂汗がブワッっと吹き出しはじめました。家族にウ○コが漏れそうだと伝えると、一日を楽しく過ごせた余韻で、なごやかなムードだった車内の空気が、急速に張り詰めてゆくのがわかりました。


 その時私は時限(ウ○コ)爆弾と化したのです!。I got a time bomb !


 ト イレ!トイレ!早く見つけないと!5.4.3.2.1.Go!


 私は便意から気をそらすべく、深呼吸をして、なんとか気持ちを落ち着かせようとしました。心を無にすれば良い。なるべくウ○コのことは考えまい……。にもかかわらず、後部座席に座る子供達が口論を始め、お互いを「クソ野郎とか、クソボケッ」など、罵りあいを始めました……。


「クソクソ言うなぁ!」


 私は泣きそうな声で二人を叱りました。叱れば自ずと腹圧がかかります。ウ○コ爆発までのタイムリミットが縮まるではないか!


 ふと、助手席に座る妻が声を上げた。


「あそこにお店あるよ!」


 今、走行しているバイパスから見て右前方に、ショッピングモールが見えました。しかし、そこに行くには今走っているバイパスを降り、高確率で渋滞している道路を通らなければなりません。駐車場も混雑している時間帯なので、車を停められずウロウロしているうちに万事休す可能性大なので、渋々断念……。ダメだこりゃ。次行ってみよう!くうぅ……。


 私が走行している道路は信号も少なく、スイスイと走ることができますが、一方、道路沿いにコンビニ等の店が少ないのです。

 

 迫り来る便意!苦痛のリフレイン!身体中の毛穴からは、止めどなく脂汗が吹き出した。絶望の境界線を一人綱渡りしている私のことなどは露知らず、後部座席に座る子供達二人は、お互いにちょっかいを出してふざけ始めました。その度に私の座席に、ドスッ、ドスッっと嫌な衝撃がくるので、私は「やめてくれぇ」と、最後の「れぇ」が変に裏返った声で、注意しました。あの声ならヨロレイヒーを上手に歌えそうです。そんなこと考えている場合ではありません!トイレのあるお店が見当たらないんです!


 私は想像しました。青く澄んだ空を。スカイブルー。私の大好きな色です。少しだけ気分を爽快にしてくれました。しかしお腹の時限爆弾は、無慈悲にも待ってはくれません。額から流れ出た汗が目に入り、しみるうぅ……。その涙で霞んだ視界の先に、青空が!


 否、夜なので青空は見えません。スカイブルーの看板、そうです。ローソンが見えました!


 神は私を見捨てはしなかった!ゴッド セイブ ザ おじーん!


 私の車は、ローソンの駐車場に吸い込まれるように入って行った。駐車するや否や、小走りで店内に飛び込み、女性店員さんの「いらっしゃいませ」の声も払いのけるような勢いでトイレに向かいました。手前のトイレは人が入っていました。残るは奥のトイレ!誰かが入っていたら万事休す。


 セーフ!私はトイレに入ると間髪入れずにズボンとトランクスを同時にさげて……。おっと、鍵を閉めないと!私はフルチン状態で腕を伸ばして施錠。5.4.3.2.1.Go!便器に座ると即、爆発しました。


 時間にして十分弱、トイレで独り爆発していました。まだ残便感があり、もう少し踏ん張ろうかと迷いましたが、車には家族を待たせてあります。あまり遅くなると怒られそうなので、戻ることにしました。またもよおしてこないだろうか。一抹の不安を残して……。


 ──この判断が甘かった……。


 トイレだけ借りてずらかるのも悪いので、私はフリスクを手に取りレジに向かいました。レジは二つあり、向かって右側は中年男性。左側は若い女性。私は右側の中年男性のレジで会計してもらうことにしました。理由は単純に恥ずかしかったからです。トイレで力みまくって顔中汗でびっしょり。冬なのに……。表情もきっと、くたびれたオッサン度120%の哀愁が漂っていたでしょう。そんな私を見た女性店員はきっと、(なにこのオッサン。なんでこんな寒い日に汗びっしょりかいてんの……。あっ!そうだ。このオッサンさっきトイレに入ったよね。きっとウ○コしてたんだよ。汗をかくほど力んでたなんて。超ウケる!ぷぷぷっ……)なんて吹き出された日には赤面ものです。


 私は右側のレジで速やかに会計を済ませて、そそくさと店を出ました。


 車に戻ると妻は閉口一番「お腹大丈夫?」と言って心配してくれましたが、子供達は退屈をもて余して不機嫌ムードです。なんだか空気が重い……。もたもたしていると集中攻撃されそうなので、速やかに車を出しました。そして道路に出てすぐ、妻に「そういえばさっき半ドアだったよ!気を付けてね!」と、注意されました……。ショボーン……。


 道路に出て程なく、嫌な予感が的中したことを覚った。


 ──時限爆弾復活!


 車内には気だるいくたびれた空気が漂う。この雰囲気の中、非常に言いづらいことであるが、家族にまたウ○コが出たくなったと伝えると、一瞬で車内の空気が、苛立ちからくるような張り詰めたものに変わっていった。みんな早く家にかえりたいんだろうな……。でもちょっとだけ待ってくれぇ……。


 二度目の時限爆弾は、更に強烈でした。超短時間設定、待ったなし!ブワッと汗が吹き出し、アクセルを踏む私の足にもグッと力が入った。


「パパ、スピード出しすぎないでね。捕まるよ」


 妻が不安そうに言った。私の焦燥感が伝わったのだろう。


「だ、大丈夫。今警察に捕まったら完全にアウトだから……」


 そう。捕まったらその時点でウ○コエクスプロージョンだろう……。私はスピード違反ギリギリの速度を保ちながら走行した。そしてここから先の区間、残念ながら、もうコンビニがないんです……。しかし家まで我慢できないことは確かなので、どこか用を足せるお店を探さなくては!


 深呼吸をして気持ちを落ち着ける。冷静にならなければいけない。目を皿のようにしてお店を探すが……。ない。しかし私の記憶が確かなら、もう少し先にショッピングモールがあったはず。もう少し……。もう少し……。もう少し……。


「あっ、ショッピングモールだ!」


 思った通り、前方にショッピングモールが見えた。しかしそこへ行くには、バイパスを左に降りる必要がある。そして間もなく左側に道路が見えた。しかしその時、迷いが生じた。


 ──ここでよかったっけ?


 もし間違っていたら、間に合わないかもしれない……。この付近は田園地帯なので、田んぼだらけの田舎道に迷い込む可能性もある。私の記憶が確かなら、もう少し先にショッピングモールに続く道があったような気がする。その不確かな記憶を信じて、その道をスルーした。


 もう少しだ……。もう少しだ……。道があるはず……。道が……。


 ──ない!ない!ない!道がない!


 道などなかったのです……。私の記憶が間違っていました……。もうさすがにヤバい!ナイ、ナイ、ナイ、便意止まらナイ……。


 私は額の汗を拭い、奥歯をギュッと強く噛みしめて、なんとか正気を保とうとした。強烈な便意に意識の全てを持っていかれそうだった。ギュギュッとお腹が捩れるような痛み!ついに時限(ウ○コ)爆弾はレッドゾーンに突入した!そしてこの先、今度こそ長きにわたり、コンビニもショッピングモールもなくなります。私は一か八かの賭けに出ることにしました。次にあるバイパスから降りる道を左折することにしました。その先に、コンビニや何らかのお店があるかはわかりません。何もない田舎道に出たらジ エンド……。


 おもしれぇじゃねえよ!やってやろうじゃねえよ!


 その時の私の目は血走っていたに違いない。あるいは半分逝ってしまっていただろう。後部座席の子供達は疲れたのか、静かに寝ている。静かだ……。ただ私のお腹の中だけはジェットサルーン!


 前方に、左折してバイパスを降りる道が見えた。そしてその方向を見ると、ヨークベニマルが!


 神は私を見捨てはしなかった!ゴッド セイブ ザ おじーん!


 私は迷わずハンドルを左に切った。私は安堵した。もう少しだ……。しかし、その道の先はT字路になっていて、そこにある信号が無情にも、黄色から赤に変わった……。マズイ!ひじよーにマズイ……。もう本当にもれそうだ!恐らく五分はもたないだろう。もってせいぜい四分ってところか。フォー ミニッツ ワーニング!


 長い!ひじよーに長い……。信号がこれほど長く感じたことがあるだろうか。汗で濡れた襟が冷たい。真冬に運動もせず、こんなに汗をかくとは……。早く青になってくれ……。私の顔色はすでに青くなっているが……。


 思わず上体が前に出る。信号無視をしたくなる衝動にかられるが、それはいけない。早く!早く!早く!


 信号が青に変わった!ゴー バディ ゴー!ウィンカーを左に出して左折した。


 イトーヨーカ堂。鳩のマーク。幸せを呼ぶ白い鳩!それが目の前にある。この時ほど、イトーヨーカ堂の白い鳩が神々しく見えたことはない。駐車場に車を停めると、私はドアを開けて飛び出した!


 店内に入りすぐ左側。トイレがあった!そのトイレのマークを見た途端、安堵からか、一気に便意がレッドゾーンを振り切り、頭のヒューズがブッ飛んだ!万が一先客がいたら、もう間に合わない!


 ドアは鍵がかかっていない。横にスライドすると、先客はいなかった。ドアを閉めて施錠。ズボンとトランクスを同時に一瞬で下げる。その勢いで、尻のポケットから財布が落ちたが、構ってはいられない。私は便座に座り、幸せの白い鳩に感謝した……。


 Time Bomb. 私の大好きなUKハードコアパンクバンド、G.B.Hのファーストアルバム、City Baby Attacked By Rats. の一曲目を飾るブッ飛んだナンバーです。初めてこの曲を聞いた時は本当、ブッ飛びましたね。ちなみにバンド名のG.B.Hとは、(Grievous Bodily Harm=重傷害)と言う意味らしいです。この度私も違った意味のG.B.Hになりました。


(G)下痢して、(B)便所で、(H)腹痛し……。悲しき時限(ウ○コ)爆弾と化し、家族を翻弄してしまいました……。


 その原因は、おそらく、この二つでしょう。


 一つ目は、ジェラートで腹を冷やし、そのあと温かく刺激の強い唐辛子昆布茶を飲んだことにより、お腹に負担がかかったんでしょう。


 二つ目は、豚骨ラーメンのトッピングのニンニクを入れすぎたからでしょう。ニンニクは健康に良いのですが、一方、摂りすぎると刺激が強いため、胃腸を悪くすることもあります。


 お腹を急速に冷やしたり温めたり、挙げ句のはてに、刺激の強い食べ物を摂れば、そりゃあお腹を壊しますよ。トホホ……。


 食べ過ぎ、飲み過ぎ、気をつけなければいけませんね。


 いい塩梅でいきましょう!


















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