第2話 夕方のクラブは動かない
僕が通う学校の校舎は3階まで教室がずらりと並んであって、校門側とグラウンド側を二つに分断している。
いつもグラウンドは野球部かサッカー部が日替りで半分を、もう半分を陸上部が使用している。今日の放課後は野球部に使われていた。
バットが小気味良い音を響かせ、ボールが地面を叩く。ランナーは間一髪のところで二塁に滑り込む。練習だというのに、ユニフォームが泥んこに汚れている。
そんな努力と汗と涙とは無縁な僕は、彼らが切磋琢磨する様子を二階のベランダからぼうっと眺めていた。
ベランダの窓を開けて部室に戻ると、部屋の隅からくぐもった声がした。
「コウ、来てたのか」
部室の隅には何代か前が作ったらしい木工作の巨大空気砲がある。基本的にアオイは部室に来ると、冬眠中のヤマネのごとく気持ち良さそうに寝ているのだ。空気砲の中で。
そこに、がらがらと戸が引かれてカナザキさんが入ってきた。
「よっ、副部長。部長は?」
「アオイならそこにいるよ」
カナザキさんは空気砲の砲口に顔を突っ込んだ。
「部長ー、入部届け持ってきたんだけど」二本の指先で紙切れをはためかせる。アオイは眠そうな顔でそれを遮った。
「悪りぃけど、ちょっと寝かせてくれ。それと、今さら入部届けとかいいよ。入ったの半年前だし」
「あ、そう。わかった」カナザキさんはあっさり引っ込んだ。
科学系の部活は主に二種類に分けられる。一つはロボットの大会に出たり研究発表をしたりするマトモな部活。もう一つはだらだらとゲームとかをしながら喋るだけのマトモじゃない部活。僕らはもちろん後者だ。
5分くらい経ったが、アオイが空気砲から出てくる気配はなかった。
仕方ない。アオイは今日頑張った。なにせ押し寄せる数字の波を机に突っ伏してかわし、ボテボテのサードゴロをキャッチ、一点先取の阻止に成功。その後、外国人とのコミュニケーションに戸惑うマイコに対し完璧なフォローをした上、黒板上で繰り広げられる合戦から見事生還して見せたのだ。称賛の拍手を贈りたいが、それでは彼を起こしてしまう。
僕は部日記の記入欄に『科学実験』と言い訳を書いた後、アオイから1番離れた場所にカナザキさんと2人で固まった。
「カナザキさん、暇だからトランプやってようか」
「そうだね」
かくして、楽しい科学実験は始まった。
僕はちらりと時計を見る。3時37分。あと2時間と53分。
その時が来るのを、僕はカードを切りながら待っていた。
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