霜月さんの周りには、謎が沢山溢れている。
雫
第1話 霜月水美との出会い
大学の入学式の日。
僕は平凡で退屈な日常から逃げるために沢山勉強をしてこの大学に来た。
進路を決定する時に、この大学が良いと担任に相談すると、お前の成績では難しいだろうと宣言されたこともある。
とにかく頑張った僕は何とかこの大学に入学することが出来たのだ。
その上、SNSでこの大学内の友人を作ることも出来た。
その人とは明日、会うことになっている。
「はぁ……夢みたいだ…」
1人でそう呟くと、目の前から歩いて来る人と肩がぶつかった。
「あ!す、すみません!」
僕が申し訳なさそうにそう言うと、髪の毛を金髪に染めた男性とその取り巻きたちが僕の方へと詰め寄ってきた。
必死に謝罪の言葉を絞り出そうとしてみたが、やはり平凡な僕では平凡な謝罪をすることしか出来ず、予想通り目の前のイカつい男性から逃げることは出来ない。
もう、この状況が長く続くのであれば殴られた方がマシだ。
そう考えていた頃に、近くで歩いていた女性がピタッと止まった。
「おい、何をしている」
その声で、僕の襟を掴んでいたイカつい男性達が声のする方へと振り向いた。
_そこに居たのは入学する前から話題になっていた女性だ。
華奢で、清楚な服装をしている。
確か、名前は
SNSで知り合った萩山
しかし、話題になっていて知っていたは良いが、いざとなって近くで見てみると想像と違ったのだ。
見た目は想像をはるかに超えて美人で可愛いが、口から放たれる言葉はその容姿とは似合わないものだった。
「その少年を離せ」
「なんだ?お前、コイツの彼女か?」
「違う」
そう言うと、なんでお前に指図されるんだと下品に笑いながら茶化していると、目の前の霜月水美は携帯を鞄から取り出し、電話のアイコンをタップした。
「もし今、その少年に殴り掛かればお前らは警察沙汰だ」
その事を言っても、まだ分かっていないのか先程と同じように茶化しまくっていた。
すると呆れた霜月水美は推理を披露し始めた。
「まず、お前らはこの大学の4年生だ。そうだろ?
その胸ポケットに入れてある大学から配布されたペンは4年生だけにしか配布されないものだからな。
つまり、お前らはこれから進学か就職かのどちらかだ。
ここまで言えば、頭の悪いお前らでも分かるだろうか」
携帯を鞄に入れ、そう言った。
目の前にいるイカつい男性達は、彼女の言葉に含まれた重大さに今更ながら気づき、走って逃げていった。
その後、僕に話しかけることも無く去ろうと彼女はしていた。
それに気付いた僕は焦って彼女のことをとめた。
「ちょ、ちょっと待って!!!」
「…なんだ?」
「あ、ありがとう!!!助けてくれて!!」
そう言うと、目の前の霜月水美は静かに微笑んで僕とは逆方向へと歩いていった。
__彼女は、女神なのか。
去っていく彼女の姿を見つめながらそう思った。
この気持ちは恋心というもので表すのは、かなり下品だろう。だったらなんだろうか。
少なくとも彼女との、この出会いが僕の望んでいた〝平凡からの脱出〟という第1歩ということは明確である。
霜月さんの周りには、謎が沢山溢れている。 雫 @sizuku125
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