第11話 我が家
寝ているルミナを起こさないようにテントを出ると太陽の光が眩しく感じた。うん、今日もいい天気だ。
両腕を上にあげて背伸びをする。やっぱり自分のベッドでないと体が痛いな。次に座って背中を曲げストレッチしていると後ろから誰かが背中を押してくれた。ルミナだ。
「あいたたた、ルミナもっとゆっくり」
「ルクスおはよう。ダメだよ、こんな固いとすぐケガしちゃうよ」
と言ってさらに押してきた。
「も、もう大丈夫だから。ありがとう」
俺が立ち上がると、次はルミナが足を広げて座る。
「じゃあ次は私の番ね。ルクス背中押して」
「え……じゃあいくよ」
恥ずかしい気持ちを抑えながら背中を押した。ほんと女に免疫ないな俺……
「どう? 柔らかいでしょ」
胸までペタリと地面にくっついている。
「おぉ。すごい、すごい」
「なんか気持ちこもってなぁい。そりゃあルクスの強さに比べたら大した事ないけどね」
口を尖らせて少しムスっとしていた。
「ごめん、ごめん。ほんとにすごいよ。俺には一生無理だよ」
「ふーん、でも私は頑張ってルクスに近づいてみせるんだからね」
と言って曇りなく笑った。
「朝からイチャイチャしていますねぇ。俺も早くアメリアに会いたくなっちゃったよぉ。ハッハッ、ハクション!」
アルスは外で寝ていたせいで風邪を引いたようだ……まぁからかう元気があるなら大丈夫だろう。いい雰囲気だったのに邪魔してくれちゃって。
テントをしまって、すぐに出発した。アルスは風邪を引いて体調が悪いのか、また馬車の中で寝ている。昨日から寝てばっかりだな、この人……でもおかげでルミナとゆっくり話が出来る。何気ない話をしていたが、昨日少し気になったことを聞いてみた。
「そういえば昨日寝言でお兄ちゃんって言っていたけど、兄弟いるの?」
「え……あ……私そんなこと言った? お兄ちゃん? いないよ! お兄ちゃんなんて絶対いないよ」
そんな強く否定しなくても。いるってバレバレじゃん。何か言えない理由があるのかな。気にはなったがそれ以上追及することは止めた。まだ知り合って三日しか経ってない。徐々に信頼関係を深めていけばよいのだ。
「そういえば、プラシアってどんな町なの? なにかおいしいものある?」
気まずくなったのか話題を変えるようにルミナが聞いてきた。
「水が豊かな町だね。建物はほとんどが白で作られていて町中に水が流れていてキレイな町だよ。川には魚がいっぱいいて、生でも焼いても絶品だよ」
「へぇ、すごく楽しみ。早くつかないかなぁ」
二日後、予定通りプラシアに着くことができた。道中は特に大きな問題はなかった。動物や盗賊に二回ずつ襲われたくらいだ。動物は食料になり、盗賊は全員倒しましたけど襲われる回数多くありません? 計四回襲われましたけど……もしかして俺の運まで悪くなった?
ちょっと不安になり、久しぶりにステータスを確認してみる。
運:80
よかった……変わってない。あれ……レベル上がってないか?
LEVEL:728→730
うわ! 一気に二つも上がっている。他のステータスも五十~百程上がっている。あのゴーレム倒したからか。それしか考えられない。しかしAとSの間にいるような魔物を倒しただけでは、七百台に達したこのレベルは普通上がらない。しかし二つも上がったとなれば、なにか補正がかかっているかもしれない。ステータスではそういった補正の部分は見えないのだ。例えば、神童、勇者、魔法特化、幸運など様々な補正が存在するらしい。まぁほんとかどうか疑わしく今までの世界では解明されることは無かった。あくまで噂レベルの話だがそれが無いと説明できない部分が多い。
九十九回転生してきたが初めてのレア補正に違いない。ここ十回の転生では一回の人生でどれだけ頑張ってもレベルは十も上がることはなかった。それがいきなり二も上がった。俺はうれしくてたまらなかった。もはやこれ以上の強さには興味はないが、レベルを999にすることにだけは興味があった。果たして四桁は存在するのか……それだけを調べる為に今まで頑張ってレベル上げしてきたのだ。
「いきなりニコニコしだして、どうしたの?」
「あ、ルミナ。そういえばゴーレム倒してレベル上がった? 俺二つも上がっていてさ。ついうれしくて」
「今さらステータス確認したの? 私はたいして活躍してないから、一つしか上がってないかな。ていうか、私に嘘のステータス教えたでしょ。本当のステータス教えてよ。あのステータスであの強さはないわ」
しまった……思い出させてしまった。どうしよう……よし、次は十分の一で教えよう。ルミナに少なくステータスを伝えると、
「はぁ……十二歳でこのステータス……自信なくすなぁ。でもなんで力を隠すの? どうやってこんな強くなったの?」
「え……うーん」
俺が少し話しづらそうにしているとルミナが、
「あ、待って……私も自分のこと全部話している訳じゃないのに、私だけ聞くのはずるいね。お互いもっと仲良くなってからお互いの事話しましょう」
眩しいくらいの笑顔で謂ってきた。ルミナも何か言えない秘密があるのだろうか……
「そっか、わかった」
俺も満面の笑みで答えた。
「じゃあ、2人だけの約束ね」
「うん、約束だ」
お互い何も隠さず話し合えるように信頼し合う日が来るのだろうか……いつか俺の転生の話をする日が来るのだろうか……いや、ルミナならきっと大丈夫だ。何も根拠はないが何故かそんな気がした。
その後は珍しく何事もなくプラシアの町に着いた。
「わぁ、ほんときれい。砂っぽいサンドラとは大違いね。それに大きい町だね。人も建物もいっぱい」
ルミナは目をキラキラと輝かせている。初めてくる町に感動しているようだ。
「お父さん、とりあえず家に帰る?」
「すぐにでも家に帰りたいとこだか、まずギルドに報告へ行ってからにしよう。ルクスもシャルルに元気な顔を見せてあげなさい。心配していたからな。新しいパーティーメンバーも報告したいし」
「そうだね。シャルルちゃん、俺には無理だって、このクエストには反対していたし」
「シャルルちゃんって?」
「プラシアのギルド職員だよ」
「女の子なの?」
「そうだよ。年は上だけど、小さくて可愛いからみんなシャルルちゃんって呼んでいるんだ。本人は嫌がっているけどね」
「へぇー。小さくて可愛いんだぁ。ふーん」
ん? なんか機嫌悪くなってない? 嫉妬でもしてくれたのかな……いやいや、それはないない。こんなことで期待しちゃ駄目だ。今まで何度も勘違いしてきただろう、俺は!
三人はギルドに着いて、シャルルちゃんにサンドラでの出来事を報告した。
「お疲れ様でした。見る感じケガとかもなさそうですね。よかった、よかった。アルスさんの言う通りルクスちゃんは強いんですね」
シャルルちゃんは安心したように吐息を漏らす。
「ルクスちゃん……」
ルミナがボソッと呟いた。
「あれ? こちらの方はどちら様ですか?」
「はじめまして。サンドラから来ました。ルミナと申します。アルスさんとルクスのパーティーに入れてもらいました。ランクはC級です。今後お世話になると思います。よろしくおねがいします」
ルミナは特に表情も変えず淡々と自己紹介をした。
「ルクス……呼び捨て……」
シャルルもボソッと呟いた。
「私はシャルルです。こちらこそよろしくお願いします」
と言って、ルミナから目を離さない。
「じゃあ今日は報告だけなので、クエストはまた今度受けに来るよ」
アルスがそういうとシャルルはいつもの営業スマイルで答えた。
「はい、お待ちしております」
シャルルは三人がギルドを出る後ろ姿を眺めながら、
「ルクスちゃん、あのルミナって子の事どう思っているんだろ……悔しいな。私も戦うことができたらあの中に入れたのかな……」
と嘆いた。シャルルは涙が流れそうになったが、グッと堪え仕事に戻った。
久しぶりの我が家に着いた。玄関を開けるといつものように、
「おかえり、ルクス。ケガはなかった?」
とアメリアが優しく迎えてくれた。
「うん、なかなか強い魔物だったけど大丈夫だったよ。あっ、これお土産のマンゴンだよ」
「ありがとうルクス。傷むともったいないから、さっそく今日のデザートにしましょう。あら? そちらの女の子はどなた?」
「あっ、はい。初めまして。私はルミナと申します。サンドラで冒険者をやっていたところアルスさん達に助けられて、今はパーティーを組ませて頂いております」
ルミナは先ほどとは違い、緊張しているようだったが笑顔で自己紹介をしていた。
「私はアメリアよ。ルクスの母親です。よろしくね、ルミナちゃん。すぐご飯作るから食べていきなさい」
「はっ、はい。ありがとうございます」
「あのぉ……ただいまアメリア」
ここまで全くアメリアに話しかけられなかったアルスがたまらず声をかけた。
「アルス……あとで話があります」
「えっ? あっ、はい」
なんだろう……アメリアはすごく怒っているみたいだけど。アルス何かやらかしたのかな? 全然検討もつかないな。本人もよく分かってないみたいだし……
くつろいでいると、ルミナが料理を運んできた。ルミナもアメリアの料理を手伝っていたようだ。今日の夕食は鶏の唐揚げと、ピザと、サラダとマンゴンだった。どれもおいしそうだ。
食事中、アルス以外の三人は仲良く話していた。アメリアとルミナも一緒に料理を作るうちに仲良くなったようだ。よかった、よかった。
会話の中でルミナの両親、家族がいないという話になると、アメリアは涙を流していた。
「ルミナちゃんは、これからどうするつもりなの?」
「幸いクエストを達成したお金も両親が残してくれたお金も少しあります。今日からはとりあえず宿に泊まろうと思います」
「そうなの……」
アメリアは唇を指で触りながら何やら考えこんでいる。
「ねぇ、アルス?」
「あっ、はい!」
アルスは久しぶりに話しかけてもらってびっくりしている。
「ルミナちゃんもこの家で一緒に暮らしてもらってはどうかしら。十三歳の女の子が毎日宿暮らしっていうのも危ないわ。お金も勿体ないし」
「うーん、そうだな。ルクスとルミナちゃんがそれでよければいいんじゃないかな」
えっ何、この展開。俺はもちろんオッケーだけど、ルミナはどうなんだろう。答えを聞くのが怖くてルミナの方を見ることができない。
「私は……」
少し間をおいて俺の方をチラッと見て、
「ご迷惑じゃなければ一緒に暮らしたいです」
と顔を赤くしてはっきり答えた。
アメリアは、ふふふっと笑いながら、
「じゃあ今日からよろしくね、ルミナ。お母さん代わりができるか分からないけど、なんでも相談してね。良かったぁ、女の子の子供も欲しかったのよねー」
と嬉しそうに話している。
「こちらこそよろしくお願いします」
ルミナも嬉しそうだ。溢れそうな程の笑顔で何度も礼をしている。
俺も机の下で拳を強く握った。
それを見ていたのか分からないがアルスが、
「ルクスはどうなんだ? いいのかぁ?」
答えが分かっているだろうに聞いてきた。
ニヤニヤしているのが非常にむかつくが、ここで変なこと言ってルミナを困らせてもまずいので正直に大歓迎だと答えた。
「よし、決まりだ! ルミナも我々の家族だ。お父さんって呼んでいいからな」
「それは……ちょっと……」
ルミナが返事に困っていると、机の下でゴツッと鈍い音が聞こえた。アルスが「うっ」と声をあげて顔をしかめる。
「調子に乗らないでね。お・と・う・さ・ん」
今日のアルスに対するアメリアはほんとに恐ろしい。一体何があったのだろうか……
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