猫被り兄妹

@rysat777

第1話 転校生

朝八時。学級会長である、明穂乃あけほの蛍はクラスの誰よりも早く学校に来る。


蛍が来た数十分後。

クラスメイトが続々とやってきた。

しかし、いつもよりも騒がしい気がする。

「おはよ、蛍」

と、声をかけてきたのは昔からの親友の雨叢あまむら楠式くすのりだ。

「おはよう、楠式。…なんかいつもより騒がしくないか?」

「あれ、蛍知らないの?」

「うん?」

「今日、転校生が来るっていう話だよ」

「そうだったのか…」

「興味ないの?」

「いや、唐突だなぁと思って」

「ほんとにね~」


キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴った。

「みんなー席ついてー」

担任のつづみ先生がやってきた。

「えー。みんな知ってると思うけど、今日転校生が来ます」

「「うおぉぉー!!!」」

と、クラスの一部の男子が発狂。

「じゃあ、つづりさん。入ってください」

教室の前のドアから入ってきたのは、身長約150センチ、黒髪ロングの少女。

…一言で表せば、とても可愛い。

「…はじめまして。蓮庭はすにわつづりです。今日からどうぞよろしくお願いします」

クラスが静まり、少し間が開いた次の瞬間―

「めっちゃ可愛いじゃん!!」

「美少女や!!」

「ついにクラスにかわいい子が…!!!」

などなど。めっちゃ喜んでる、一部男子と冷たい視線を送るクラスの女子。

「わからないことも多いだろうし、とりあえず学級会長の隣に机が置いてあるからそこに座ってもらおうか」

すると、俺に恨むような視線を送る一部男子。

「ちっ…学級会長になりたかった…」

「覚えてろよ…蛍…」

いやいや、俺を学級会長に推薦したのお前らだろ。

そんな会話をしていたが、転校生の蓮庭さんは表情を何一つ変えずに隣の机に座った。

「よろしくね、蓮庭さん。わからないことがあったら聞いてね」

と小声で話しかけたが―

彼女は何も言わずにただコクリと頷くだけだった。


朝のHRが終わった瞬間、すぐに彼女の机の周りにたくさんの人が集まった。

「蓮庭さん、趣味とかある?」

「最寄り駅どこ?」

「どこからきたの?」

「誕生日いつ?」

などなど。質問攻めされていた。しかし彼女は何も答えずにただ無表情でうつむいていた。…彼女が軽く舌打ちしていたように見えたのは俺だけだろうか。


あっという間に放課後になった。

今日は妙に時間の経ちが早く感じる。

俺は特に部活に入ってないので、すぐに家に帰っている。

ちなみに、俺の通っている霞之河かすみのかわ高校から家までは電車とバスを使って登下校している。高校の最寄り駅の霞河かすみがわ駅からは数十駅離れた、かがりびという駅が俺の家から一番近い駅である。

霞河駅のホームで電車を待っていると、見慣れた人がいた。

「あれ、蓮庭さん。こっち方面なの?」

突然話しかけられて驚いていたが、無表情で頷いた。

「へぇ~。ちなみに最寄り駅は?」

そう聞いてみたものの、どうせ答えないんだろうと思っていたら―

「…燎駅」

とボソッと教えてくれた。

朝聞いたはずの声が、かなり久しぶりに感じた。

「燎駅なんだ。同じだね」

「………」

今度は完全にスルーされた。

それから何も会話をしないまま電車が来て、一緒に電車に乗り、約一時間。

…気まずい空気である。

改札を出た。

俺はこのままバスを使うのだが、彼女は商店街のある方へ曲がろうとしていた。

「あ…は、蓮庭さん!また明日!」

彼女はこっちを向いて会釈をした。



家に帰った。

相変わらず誰もいない。

俺は一人暮らしをしている。

「疲れたぁ…テレビでも見よ。」

俺はソファに寝っ転がりながらテレビを見ていた。

それから何十分後だろうか。家の鍵が何者かによって開けられた。

そのままスタスタスタと廊下を歩いている。

そして、リビングに入ってきて何をするのかと思いきや―

「ただいま、お兄ちゃん」

と声をかけられた。

その声は朝にも聞いたし、さっきも駅で聞いた声だ。


「おかえり、つづり


俺は、今日転校してきたはずの彼女の名前を口にした。

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