第四話 ようこそ喫茶シルリイへ
「リリィ、ただいまー。」
僕はフィリゼとルーヴを連れて、自宅兼喫茶店の我が家に帰ってきた。
「あっ!兄さん、お帰りなさいですー♪」
家に帰って来た僕に気付いた妹が出迎えてくれた。
妹のリリィは僕より2つ下の16歳。体格は母に似て小柄で、僕と同じ茶髪茶眼。ツーサイドアップにまとめたセミロングの髪には、以前僕がプレゼントした花の髪留めを付けている。僕が店にいないときはお店を一人で切り盛りしてくれているしっかり者だ。
いや、今はバイトの子がいるから、一人のことは少ないはずだが……。
「今日はちょっとお客さんを連れてきてるんだけど、店の方は大丈夫?」
「はい!今はお客さんいないですよー。」
「それはそれで経営的にむっちゃ心配なんだが……。」
「朝はそれなりにいたから、きっと大丈夫ですよー。」
玄関先で待ってもらってるフィリゼ達を軽く手招きする。
「えっと、この人達は僕が山でお世話になった、フィリゼさんとルーヴちゃんだよ。」
「始めましてじゃな。妾はフィリゼ・ミレニアじゃ!よろしく頼むぞ!」
「……ルーヴ……です。よろしく……です。」
フィリゼはいつも通り元気いっぱいだが、ルーヴは少し緊張しているようだ。
「わー綺麗な人!フィリゼさんとルーヴちゃん?兄さんがお世話になったみたいで、ありがとうございました。……お世話になったということは、やっぱり兄さんドジしちゃったんですよね?」
「まぁ、ドジではあったかもしれんが……。」
「やっぱり?兄さんは真面目なんですが、ちょっと抜けてる所があって……。」
「失敗は誰にもあることじゃからな。そのことについては全然気にしてないぞ。今日もウサギ狩りを手伝ってもらったりしたし、こちらこそお礼をしたい位じゃ。」
「へぇ、ウサギ狩りですかー。」
「うむ。薬の材料に必要だったのでな。」
「フィリゼさんって薬屋さんなんですねー!すごいです!」
「ふふふ。なんだか照れるの。」
「フィリゼさんっておいくつなんですか?」
「16歳じゃ。」
「そうなんですか!!私も同い年ですよ!私はリリィって言います。よろしくお願しますね♪」
フィリゼとリリィは初対面とは思えないほど、すっかり打ち解けてしまったようだ。
立ち話もあれなので、二人を喫茶店の方に案内する。
「じゃあ、僕はお茶でも入れてくるよ。フィリゼ、コーヒー飲んでみる?」
「おお!飲んでみたいぞ。」
「了解。苦いのダメだったりする?」
「い、いや大丈夫じゃ!苦いのなんてへっちゃらじゃ。」
「じゃあ、砂糖とミルクはいらないねー?本当に良いのかなー?」
「うぅぅ……。やっぱり付けてくれ……。」
「はいはい。ルーヴちゃんは何にしようか?」
「ルーヴちゃんには甘くしたココアとかはどうですか?」
甘いという単語に反応したようで、ルーヴの目が輝く。
「じゃあ、ルーヴはココアでいい?」
「……んっ。」
ルーヴは元気に頷いた。
ちなみにリリィは「何でもいいですよー。」とのことだったので、コーヒーでも出そうかな。
それから僕は二階の自室に荷物を置き、喫茶店の制服に着替えてから、飲み物とお茶請けを用意する。その頃フィリゼたちは自分たちのことを話していた。
「そうですか……。フィリゼさんのご両親、亡くなられてたんですね。」
「随分前の話じゃ。今は気にしとらん。」
「……実は、私達の母も数年前に亡くなったので、気持ちはよく分かりますよ。」
「そうじゃったのか!あやつは全くそんな事言って無かったのじゃ。すまぬのぅ……。」
「いえいえ。私達も気にしてないです!お互い様ですよー。」
「それで、お主の父上はどうしたのじゃ?」
「母が亡くなってから暫くして、私達は父の店を継いで独り立ちしたので、父は一人で旅に出ました。元々冒険者だったみたいですしね。」
「ふむ、それはちょっと寂しいの……。」
「でも、たまにちょっとした土産を添えて手紙を送ってくるんですよ。それがいつも変な物ばっかりで。えへへ。」
「ははは、それはいいな。ふぅ……それにしてもこの店、素敵じゃな。なんだかとても居心地がよい。」
「両親から受け継いだ店なんですけど、両親が購入する前は魔導書を売っていた本屋だったそうです。」
「ふむ、なかなかに趣があって良い建物じゃ。」
ここ、カルサの街は木材と鉱石の水運で栄えたプランツ地方最大の街である。
喫茶シルリィはカルサの街の中心を南北に通る、プランツ街道の通り沿いにある。喫茶シルリィのある建物は築50年ほどの木造で白いレンガ壁の建物だ。
「店名のシルリィというのは、両親がこの店を開いたときに色々迷った結果、私と兄さんの名前を合わせたこの店名にしたそうですよー。」
「シルトとリリィでシルリィか。いい名前じゃな。」
「ちょっと親バカですけどね。……まぁ、私もこの店名、ちょっと気に入ってます。」
「この店はお主とシルトだけでやっておるのか?」
「私と兄さんのほかに、アルバイトの子が一人いますよ。今日はたまたま休みなんです。昼間は主に私がやって、夜のバータイムは兄さんがやってます。」
「バーというのは酒場か!?良いのう!妾、酒は大の好物なんじゃ。」
「えっ!?フィリゼさん、お酒はマズくないですか!」
「あぁ、そう言えば言ってなかったの。妾は光竜種の竜人なんじゃ。竜は赤子でも酒が飲める種族じゃし、問題ないぞ。」
「そうだったんですか!……でも、羽とかってどうしてるんですか?」
「今は魔法で一時的に消してあるのじゃ。シルトのやつが『ドラゴンだって分かると驚いちゃうかも』って言っておったのでな。お主はあまり驚かないな?」
「はい。フィリゼさんはフィリゼさんですよー。この街はアヴァンタージュ山脈の鉱山で働くドワーフのお客さんが良く来ますし、種族の違いなんてたいして気にならないですよ?」
「そうか!それなら良かったぞ。それと、出来たらなんじゃが敬語で話すのやめてくれんか?敬語で話されるの、なんか苦手なんじゃ。」
「うーん……。困りましたね。私、つい癖で敬語で話してしまうので……。」
「そうなのか?だったらしょうがないの……ってなんか、ゴリゴリうるさいな。」
「今兄さんがコーヒー豆をミルで挽いているんですよ。」
「そうなのか?のう、シルト。ちょっと見させてくれ?」
「別にいいけど特に面白い物じゃないよ。」
コーヒーミルでゆっくり豆を挽く。挽いた時熱が伝わらないようにゆっくり、そして均一に挽けるように回すリズムは一定に。父さんから教わったコツだ。
挽き終わったらミルで挽いたコーヒーをネルフィルター(布製フィルター)に入れてドリップポッドでお湯を注ぐ。まずは全体をお湯を軽く含ませ少し蒸らす。その次はコーヒーの粉を小さな『の』の字を描くように淹れてゆく。
「おお!香ばしくてとても良い香りじゃ。」
「でしょ。うちのブレンドのベース、ビラジルという銘柄の豆は癖が少なくて香ばしい香りが特徴なんだよ。ビラジルをベースに浅煎りと深煎りのロコンビアをブレンドしてあるんだ。香ばしい香りとコクが楽しめるコーヒーだよ。」
「……品種についてはよく分からんが、すごくこだわって作ってることは分かったぞ。妾も薬を作るときは材料にこだわるし、なんとなく分かるな。」
「ふふ、ありがとう。さて、お待ち遠様。当店自慢のブレンドコーヒーです。これ、ミルクと砂糖。自分で味見ながら入れて。あと……。」
「おお!これがコーヒーか!旨そうじゃな。じゃあ早速……。あっつ!!」
「いま熱いよって言おうとしたのに……。」
「ううう……。早く言ってほしかったのじゃ……。」
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