王女は魔力を隠したい〜最高の侍女スキルを持つ少年の悩ましい日々〜

水上ゆら

第1話 プロローグ

『洞窟の最奥には、世にも恐ろしい魔王が待ち構えていました』


 なーんて結果になること間違いなし。

 そんな、いかにもって感じの洞窟の前に俺達四人は立っていた。


 一人目は、ローラ・リシュタイン。


 リシュタイン王国の第一王女。年齢は十七歳、黒髪に黒い瞳を持つ美少女だ。

 本人は兄と同じ金髪碧眼が良かったと、いつも嘆いている。姫様曰く、黒髪黒目より、金髪碧眼の方が守ってあげたくなる度数が上がるらしい。


 魔王をぶっ殺せる程の魔力を持つ、最強の魔法使いだが、本人はかわい子ぶってその魔力をひた隠しにしている。

 なんともイタイお姫様だ。


 ちなみに目下の悩みは、どうがんばっても治癒魔法が使えないため、好きな人に治癒魔法をかけるというシチュエーションに巡りあえないことらしい。


 治癒魔法から恋は始まると、姫様は本気で信じている。おバカの極みである。


 二人目は、アレクシス・オーウェイン。

 侯爵家の跡取り息子で、年齢は二十二歳。近衛騎士団の副団長で、魔法も剣も使える魔法剣士だ。

 王国最強の剣士の名をほしいままにしている。


 アッシュグレイの髪に、深い海の色のような濃紺と黒のグラデーションの瞳。吸い込まれてしまうようなその瞳は、見る者全てを魅了する。

 俺もたまに吸い込まれるような気になるが、健全な男子なので三秒後には我に返る。

 貴族の抱かれたい度ランキング(侍女連盟調べ)では、五年間第一位を保持し、殿堂入りとなっている。

 ちなみに、姫様の好きな人でもある。姫様は隠しているつもりだが、周囲にはバレバレだ。


 そして、俺はアレク様も姫様が好きだとふんでいる。俺の侍女としての第六感が、そうだと確信している。

 周囲の人間にとっては何とも迷惑な話だが、両片思いというやつだ。


 三人目はリディアナ・スペンサー。伯爵令嬢で、年齢は十九歳。


 銀色に輝くシルバーブロンドの細く絹のような髪に、薄い菫色の瞳。肌は陶器のように白く透き通っている。その人間離れした姿は、天の使いかと見紛うほど(吟遊詩人談)の美しさだ。


 リディ様は治癒魔法のエキスパートである。

 姫様を溺愛しているが、ツンデレキャラなので愛が伝わりづらい。

 ツンデレキャラなのに、攻撃魔法が使えないというギャップが、魔法師団の方々にはたまらないらしい。

 ツンモードでリディ様に踏んで欲しい男性は、星の数の如しだ。

 ちなみに、姫様の兄(王太子殿下)と恋仲であるため、リディ様に近づく男は、ことごとく人知れず抹殺されている。


 そして、四人目は俺、カインだ。平民なので家名はない。


 年齢は十三歳、身長は姫様と同じぐらいだが、思春期真っ只中につき、伸び代に期待だ。

 髪の色は赤く、瞳は薄い緑色だ。カッコよくはないが、カッコ悪くもないと自分では思っている。

 俺は生まれつき魔力がないため、魔法は使えない。てか、この国で魔力があるのは大体貴族だ。かといって、剣も使えない。


 じゃあどうして魔王討伐のパーティにいるかというと、貴族様達のお世話をするためだ。魔王討伐は最低でも一年はかかる概算だったので、お嬢様方のお世話係が必要だった。

 俺は王宮の侍女頭お墨付きの「侍女スキル」と、下町育ちの生活力、両方を兼ね備えていた。


 そんな俺だから、魔王討伐の一員になれと、白羽の矢がたってしまった。


『最高の侍女スキルを持つ少年』それが俺の別名だ。

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