ノベル部!!

フクロウ

プロローグ

「ついに現れたか、この魔王め!」


 勇者として数々の敵を倒し、弱きを救い強気を挫いてきた優也さんは、ついにこの世界最恐と恐れられる魔王の元までたどり着いた。

 彼は……恐れを隠せなかった。

 膝が震えているのを感じる。

 その理由は、冒険の途中、優也さんに着いてきたリサにあった。

 リサは冒険の途中で魔王に捕らえられ、かつての美しさなどはどこにもない、見るも醜い雌豚の姿へと変えられ、今、彼の目の前で倒れている。

 リサは別に強くはなかったが、弱いわけでもなかった。

 そのリサがあっさり負けたのだ。

 いかに優也さんといえども、勝てるかどうかは怪しい。


「ふ……どうした勇者よ……足が震えているぞ?あの娘のことが気がかりか?」


 魔王は倒れたリサを指差し、そう言った。


「いや全っ然。俺別にリサに特別な思い無いし。それに、うるさくて足手まといだったんだよ。むしろ礼を言いたいくらいだ」


 優也さんはそう言うと、腰から剣を抜き、そして構えた。

 魔王も牙と爪を光らせる。


「ほう、そうか。それなら良かった。それなら後で連絡先でも交換するか」


 ついに向かい合った二人。

 お互いに信じ合う正義が、今、ぶつかり合う!

 つづく‼


         ☆


「えっと……どこからツッコめばいいのか分からんな……」


 パソコンの前でふぅ……と一息つき、やりきった感満載の黒髪眼鏡の美少女、早川唯に俺が呆れたように言うと、唯は「何かおかしいですか?」と言って首を傾げた。


「まぁ、色々とおかしいところだらけだが、まず、なんで主人公が俺なんだ?」


「私の中で一番尊敬する人物を主人公にしただけです」


「尊敬する人物って……」


 唯の言葉に衝撃を受け、言葉を見失った俺は軽く頭を抱えた。

 人が書いた小説の主人公にされる。これは光栄に思うべきか否か……。


「そ・ん・な・こ・と・よ・り!」


 結構本気で考えていた俺は、背後から立ち込める殺気に気づくことができなかった。


「なんでこのアタシが、醜い雌豚の姿に変えられなきゃいけないの⁉ 優也も、なんで助けてくんないのよ!」


「いや、俺に言われても知らねえよ!」


 殺気の主は、夏希リサ。

 金髪巨乳、お金持ちのお嬢様と、見かけのステータスは最高だが、学力、運動神経といった内面的ステータスが最低というアンバランスな人間性を持つリサは今、なぜだか目に涙を浮かべていた。


「その質問については、特に理由はありません。ただ、こういう設定にしておけば、後に続く皆さんのストーリーがかなり面白いモノになるかと思いまして」


「だからってなんでアタシなのよ……」


「雌豚になるという設定が私の頭の中にできた時、もうこの役は『見た目だけ女』のリサが抜擢だと閃いてしまったので」


「ぬぁんですって〜⁉」


「まぁ二人とも、落ち着け」


 無駄に火花を散らし合う二人の間に割って入ったのは、長く綺麗な茶髪を持つポニーテールがトレードマークの美少女、宮原鈴音。

 やや性格に難アリだが、俺たちの中では頼れるお母さん的存在を確立させており、こうやって毎日のように喧嘩をする二人の間を取り持っている中立的な存在だ。


「止めないで鈴音! 今日こそ唯の息の根を止めてやるわ!」


「運動神経皆無、知能豚並みのリサにそんなことができるとも思えませんが?」


「いい加減にしろ!」


 ボコ! バコ!

 睨み合う二人の脳天に、鈍い音をさせて鈴音のゲンコツが炸裂した。


「痛! 何するのよ!」


「痛いです……」


「二人がいつまでも子供みたいな低レベルな喧嘩をしているからだ」


 高校生の美少女が、同い年の美少女二人にゲンコツを振るうというのは少々クレイジーな展開のような気がするが、これもここでは日常茶飯事だ。

 毎日毎日、こいつらタンコブいくつあるんだろうか。


「本当懲りないわね、二人とも」


 これまでずっとコピー用紙にイラストを描いていた手を止め、呆れたようにそう言うのは、古川優奈。

 腰まである黒髪ロングがよく似合う美少女で、俺が中学の頃からネットに投稿している小説の挿絵を担当してもらっている。


「優也、下書きだけどこれでいい?」


 優奈が挿絵の下書きが描かれたコピー用紙を俺に渡す。

 ……相変わらず惚れ惚れするような絵だ。


「うん、全然いいよ。ていうか、何度も言ってるけど、挿絵担当は優奈なんだし、俺のチェックとか無しにどんどん好きに描いてくれればいいよ」


「そういうわけにはいかないよ。『Re:Friend』の作者は、優也なんだから。イラストレーター志望の私としては、やっぱりその辺りのケジメはしっかりしておきたいの」


「まぁ、お前がそうしたいならそれでもいいけど」


 俺がそう言いながらコピー用紙を返すと、優奈はニコッと笑い、作業に戻った。


「さて、次は私の番か」


 リサと唯を押さえつけた鈴音が、唯に代わってパソコンの前に座る。


「ふむ。なかなかに酷い内容だが……私に任せろ。ここから優也もあっと驚く作品に仕上げてやろう」


「頼むから別の意味であっと驚かさないでくれよ……?」


 俺、優奈、リサ、唯、鈴音の五人で構成された部活、『現代文章構成部』の今日の活動。

 それは『リレー小説』である。

 一人づつ交代交代である程度の短い小説を書いていき、最終的に一つの物語が完成するというものだ。

 リレー小説は、文章能力の向上も測れるので小説を書くことを目標としているこの部活の役に立つと思い俺がみんなに提案したのだ。

 しかしトップバッターの唯がいきなりやらかしてしまったので、次に続く鈴音が何とかしてくれないと、三番手の俺が全力でリカバリーしなければならなくなってしまう。

 そうなると、俺が書きたい物語が書けなくなってしまうので、是非そうなることだけは避けていただきたい。

 あれだけ自信満々なんだ。

 きっと何とかしてくれるだろう……多分。


          ☆


「ふふふ……では今一度名乗ろう。よく聞け勇者! 私は大魔王ミヤハラ・スズネ。私と貴様は決して友好関係などは生まれん。連絡先の交換など、以ての外なのだ!」


 魔王スズネの言うことは確かに正しかった。

 確かに魔王と勇者の間に友情関係は存在しない。

 勇者と仲良くなって平和を取り戻すなどということは、最初から無理なことだったのだ。


「そうか……分かったよ。やるしかないんだな」


 優也は再び剣を構える。

 そして火蓋は切って降ろされた。


「うぉりゃああ‼」


 優也は魔王スズネに近づくと、剣を捨て、腰に携えていたロープを取り出した。

 そして目にも止まらぬスピードで、魔王スズネの体を縛り、拘束した。

 亀甲縛りである。


「ふっふっふ……覚悟しろ? お楽しみはこれからだぞ?」


 優也は笑いながらそう言うと、魔王スズネの服を引きちぎり、彼女のあられもない姿が部下たちの目の前に公開された。


「この……勇者め……あぁん……」


 魔王スズネは抵抗しようとするが、自分の胸に垂れる熱いロウに耐えられず、喘ぐ。

 ロウを垂らすのは当然、優也だ。


「ご主人様……だろ?」


 ニヤリと妖しい笑みを浮かべた優也がそう言うと、もう魔王スズネは抵抗の意識を見せることができなかった。

 痛みが快感へと変化したのである。


「はひぃ……ご主人様ぁ……この雌豚めを、どうぞ好きに扱ってくださひぃ……」


こうして、二人の熱く、長い夜が始まるのであった。


          ☆


「ふぅ、本当はまだまだ書き足りないくらいだが、これくらいでいいだろう」


「ちょっと待てええぇぇえい‼」


 少しでも、例え1ミクロでも期待した俺が馬鹿だった。

 ドがつく程の変態のこいつがまともな小説を書くわけがなかったんだ。


「どうかしたか? 優也。体が震えているぞ?」


「どーしてこーなった!! ちょっとこじれてはいたが、魔王と勇者のラストバトル的展開から、なんで十八禁のSMが生まれる⁉ なんだよ『亀甲縛りである』って! これじゃ俺が変態みたいじゃねえか! あといちいち『魔王スズネ』って自分を強調するのもやめてくれ! なんか出てくるたびに恥ずかしくなってくる!」


「貴様はもともと変態だろう。それに甘いぞ優也。この程度でSM? 十八禁? 貴様ではいつまで経っても私の部屋に置いてある薄い本は読めないな」


「別に読みたかねぇよ! それに、この部活のメンバーは、そういうのにやけに純情なんだから!みんなを見てみろ!」


 他のメンバーは、顔を真っ赤にし、パソコンを見つめたまま硬直していた。

 トップバッターを担当した唯に至っては、どこか遠くを見つめて「ガノンドロフみたいな魔王をイメージしてたのに……」とブツブツお経のように唱え続けている。

 メンバーの精神的危険を感じた俺は「どけ」と言って鈴音の代わりにパソコンの前に座り、Wordが開かれたパソコンを軽く操作する。

 そして『クソ小説』というタイトルをつけてエクスプローラーに保存し、パソコンを閉じた。

 それ以降、このファイルが展開されたことはない。




 これは優奈が(勝手に)作った現代文章構成部、通称『ノベル部』に集まった五人の、開始していきなり個性出まくりで、とてもアウトな、日常の物語……。




……に、なればいいなという物語である。


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