エデン〜人類最後の島〜
三華月
第1話 序章
反乱軍の攻撃により戦線は大きく後退した。
大きな問題としては衛星を制圧されている点にあり今後の方針としては衛星の奪取ないしは破壊を最優先とする。しかし、奪取は不可能だろう。何故なら反乱軍は“ア■■■デス“をも制圧しているのだから。
連合国軍魔導大佐オルステッド=シュルベルク
【“アース“ バーレン海域北方】
「敵艦隊を確認!エリア13を突破されます!」
「敵影5!革命派の偵察艦隊と思われ─」
「総員、戦闘配置に移行し…」
腕に付けた支給品の無線機から次々と報告や指示が響くなか、赤い髪を1つにまとめた少女は甲板を走っていた。
前方に見えてきた主砲を避けるように回り込みその影にある直径1メートル程の穴に迷わず飛び込む。
「─フッ」
僅かな浮遊感の後、4メートル近く下の黒く無骨な床に着地する。
「遅いぞ伍長」
即座に背後から声がかかる。
スキンヘッドの男が目を閉じ、そこに立っていた。少女の上官であり、この船の艦長であるロマニ=ルクセンブルク海軍少佐だ。
少女─アリア=エリアス─は素早く体勢を立て直し、
「は、申し訳ありません」
敬礼をはさみつつ答える。訓練生時代から何百回と繰り返した敬礼だ。
それからすぐに目の前の黒い筒状の機器に手をかざす。指紋やらDNAやらが一瞬にして読み取ったその機器は、ウォンという音と共に光る半透明の画面─俗にウィンドウと呼ばれる─を出現させる。
「少佐、座標をお願いします。」
「2時の方向、距離12000」
間入れずに返答がある。
ロマニは自分の周囲、それも半径2キロメートル近くまでの物の位置が把握できる。もちろん目がいいとかそういったものではなく、ごく少数の人間が発現させる事ができる"マナ“の恩恵によるものである。2キロ先の人の気配すら把握できるのだ、対象がその何十倍、何百倍ともなる船で有れば数十キロ先までの把握が可能だ。もちろん船自体のレーダーの表示と一致している。
ウィンドウを素早く操作し座標や弾の種類を次々に選択、30秒とかからず全ての設定が終わる。
「少佐、諸設定、完了しました」
「メインコントロールルーム、砲撃許可を」
『メインコントロール了解。直ちに砲撃を開始されたし』
少佐は形式的なやり取りを済ませ再び顔をこちらに向け頷く。
「砲撃におけるエデン軍法規定を全てクリア、第一から第三砲塔、打て」
少女の声で声紋認証が作動し機器の表面を無数の赤い線がはしる。
ブォン、鈍い起動音が響き、システムがフル稼働を始め─
ゴォォォン
凄まじい音が鳴り響く。
「──ッ」
アリアは何度聞いても慣れない轟音に思わず歯をくいしばり、耳を押さえる。
そんな中…
「はっはっはっ、この演習中に腕を上げたな伍長!手際がいい」
耳を押さえる事すらせず仁王立ちで笑っているロマニをアリアは恨めしそうに振り返る。
相変わらずの出鱈目っぷりにため息をつきながらアリアは軽く会釈を返す。ふと、ロマニが遠くを見つめたような気がした。
「が、」
ロマニは続ける。
「敵が戦闘機を出してくるとは伍長も予想外か?」
「戦闘機ですか?」
アリアは己の耳を疑い聞き返す。
「ああ、5機程上がってくる。」
「そんな、革命派にはそれ程の余裕が無いはずでは?」
「あぁ、この船がひよっこどもの訓練中で、落とせると判断したのかな。だとしたら、どこから情報が漏れたか知らんが……留意しろ。きな臭い噂も聞く。」
「はっ」
「そういえば、伍長も能力者だったな?」
ロマニの問い掛けに息が詰まる。
「は、はい」
アリアは僅かに俯きながら答える。
「なら、俺の戦い方を見るのも良い経験かも知れん。ついて来い。」
続く言葉が予想と違いゆっくりと顔を上げる。
梯子、─最新の船に何故?という質問には艦長の趣味としか言いようが無いが─を登っていく上官の背中を見ながら少女は考える。
(私は“マナ“を発現している。ただ、その適性、即ち"クラス“が分からない。そんな、致命的な欠点を上官が知らない筈がない。何しろ私をロマニに紹介したのは…)
そこで思考が途切れ、まとまりかけていた思考が霧散する。
アリアは軽く頬を張り、上官の後を追った。
少女が梯子を登り甲板に出た直後──
豪!
凄まじい光と熱が頬を撫でた。
それは流星のように頭上を通り過ぎ─200メートル程先の海域に着水した。
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