キャロット

もなか

キャロット

 私はキャロットと暮らしている。

 朝、私の横で眠るキャロットを後ろから抱きしめる。すると、とっても可愛い声で、おはようって返してくれる。


 キャロットと私は、ずっと一緒にいる。

 出会いは幼稚園の時。おばあちゃんの妹が、キャロットのお母さんと一緒に私の所へ遊びに来たのだ。キャロットは、最初は全然近付いて来てくれなかった。おもちゃを持ってきても、おやつをあげようと誘っても、そっぽを向いて、目も合わせてくれなかった。


 結局、その日はキャロットと仲良くはなれなかった。


 でも、私はめげなかった。何としてでも、仲良くなりたかったからだ。私は、幼稚園の帰りに、おばあちゃんの妹の家に通った。当時、キャロットと、キャロットのお母さんは、おばあちゃんの妹と一緒に住んでいたのだ。毎日顔を合わせるうちに、少しずつ私達は仲良くなっていった。おもちゃで遊んだ。一緒におやつを食べた。私が玄関を開けると、すぐに走って来てくれるようになった。


 そんな日々は、突如終わりを告げた。

 おばあちゃんの妹が、遠くへ引っ越す事になったのだ。家は古いから引き払うという。


 私は、キャロットと会えなくなると知り、悲しくて、寂しくて、泣いた。


 すると、おばあちゃんの妹が、


「ねぇ。よければ、キャロット達と一緒に暮らしてくれないかしら?」


 私はびっくりして、涙が引っ込んだ。

 話を聞くと、どうやら引越し先は老人ホームで、一緒に暮らすことができないそう。


「キャロット達はそれで大丈夫なのかしら…」


 お母さんは、そう言って考え込んでしまった。


「きっと大丈夫だよ!だって、私達は、キャロット達のことが、だいすきなんだよ!そして、キャロット達も!」


 お母さんはまだ悩んでいる。


「お願い!!」


 私はお母さんの腰に抱きつき、懇願した。


「……いいわ。でも、約束して。大事にするって。」


 私は、いちもにもなく頷きました。


 こうして、キャロット達と一緒に暮らせる事になりました。


 それ以降、私たちは前よりもっと仲良くなりました。休日はずっと一緒に遊んでいますし、幼稚園から帰ったあとも、ずっと一緒です。毎日が幸せでした。


 ___________________

 そして、月日は経ち。私は19歳になっていました。高校を卒業した私は、キャロットをつれて、一人暮らしを始めました。


 毎晩、キャロットに

「大好きだよ。いっぱい長生きしてね」

 と言い、ふかふかの毛皮に顔を埋めて眠ります。朝は、目が覚めたらすぐに、ぎゅっとキャロットを抱きしめ、


「おはよう!」


 と言います。すると、キャロットも起きて、


「にゃーん」


 と、可愛い声でおはようって言ってくれます。そして、私の頬に、ぽてり。とにくきゅうを押すのです。


 キャロットは私と同じ、19歳です。

 猫の19歳は、人間でいうと92歳。


 …覚悟を決めなくてはなりません。


 でも、その時が来るのが、まだずっと先であることを願って。私は毎朝キャロットを抱きしめます。



 キャロット。ずっと大好きだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キャロット もなか @huwahuwa_yuttari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ