流王グラムバー
緑色の重装甲ロボットのパイロットは、ジャーグのパイロットと同様に、テレパシーのような方法で直接忠志に話しかけて来る。
「フッフッフッ、街を破壊すれば現れると思ったぞ。テクコマノの報告通り、ヴィンドーの体を捨てて地球人に乗り移ったのだな。故郷を破壊されるのは辛かろう」
彼は忠志を誘き出すために街を破壊していたのだ。実際その通りに忠志がオーウィルを呼んで現れたので、それが有効な手段と知られてしまった。
忠志は逆上して、緑色のロボットに掴みかかる。
「こいつっ!!」
(タダシ、落ち着くんだ。冷静になれ)
(これが落ち着いてられるか! こいつはここで殺す!!)
殺気を込めて忠志はオーウィルの右手を飛ばした。先のジャーグとの戦いでヴィンドーが手本を示したので、既に感覚は掴んでいる。
オーウィルの右手は肘から外れて真っすぐ飛び、緑のロボットの頭部を鷲掴みするが、ジャーグの時のようにエネルギーを奪えない。重装甲がエネルギー吸収を妨害している。
(効いていない!?)
(タダシ、気を付けろ! 反撃が来るぞ!)
ヴィンドーの警告通り、緑のロボットは両腕を切り離して飛ばし、オーウィルを挟み撃ちするように、約十メートルの距離を取って左右に配置する。
緑のロボットの両腕は、それぞれオーウィルに向けて渦巻く強風を発生させて、巨大な竜巻を作り出し、その中にオーウィルを閉じ込めた。
竜巻はじりじりと渦を狭めて、オーウィルを奔流に巻き込む。オーウィルの巨体が宙に浮いて、竜巻の中で翻弄される。
(うわっ、目が回る! うぉおおお!?)
そのままオーウィルはグラムバーの両腕に東京湾上空へと運ばれ、海中に叩き込まれた。
(冷てっ! さ、寒い!)
(いけない! タダシ、このままではエネルギーを消耗してしまう!)
更にオーウィルを追って、グラムバーも海中に飛び込む。
「これが流王グラムバーの技だ。私はテクコマノとは違うぞ。お前を甘く見たりはしない。そのまま動けなくなるまでエネルギーを消費し続けるが良い!」
エネルギーを吸収して動くオーウィルは、冷たい海水中ではエネルギーを激しく消耗してしまう。対して緑のロボット――グラムバーは重装甲で冷水を防いでいる。
竜巻は水を吸い上げて、東京湾に一本の巨大な水竜巻を発生させた。竜巻の中に封じられて身動きの取れないオーウィルに、グラムバーは追撃する。
「こいつも取っておけ。冷凍砲発射!」
冷気の塊が周囲の海水を凍らせながら、竜巻に吸い込まれる。オーウィルに回避する
(寒い、凍え死ぬ……! このままいたぶり殺されるのかよ!? 何か手はないのか、ヴィンドー!)
(ある。ジャーグとの戦いでオーウィルが蓄えたエネルギーを放出するんだ)
(どうやれば良い!?)
(ジャーグとの戦いを思い出せ。内から熱が湧き上がる感覚を)
それしか手がないのなら、迷っている暇はない。忠志は懸命にジャーグとの戦いを回想する。その間にも冷凍砲を連続で浴びせられ、冷気が彼の闘志を削る。体の芯まで凍り付くような寒さには、どんな人間でも生きる希望を打ち砕かれる。
しかし、忠志は冷気を受け続けて、自分が一度死んだ瞬間を思い出した。その記憶は親友と両親を奪われた怒りと直結し、彼の闘志を再び奮い立たせる。
(死んで堪るかっ! お前等に殺されて堪るかっ!!)
一瞬の内にオーウィルが赤熱し、竜巻の中の海水が沸騰する。高熱の放出を察知して、グラムバーのパイロットは驚愕した。
「まだ余力を残していたか! だが、死期が早まるだけだぞ!」
彼の言う通り、オーウィルは竜巻に捕らわれたままだ。だが、活路はある。ヴィンドーは忠志に告げる。
(竜巻の発生源を破壊するんだ)
(どうやって?)
(腕を使え)
忠志はヴィンドーの意図を即座に理解して、オーウィルの両腕に働きかけた。オーウィルは彼の思い通りに動く。行けと念じれば飛んで行き、来いと念じれば戻って来る。それを忠志は感覚で理解していた。
彼はグラムバーの頭部を掴んだままの右手を、グラムバーの左手へと向かわせる。更にオーウィルの左腕も本体から分離させて、竜巻に巻き込ませる事で渦の外に飛ばした。左腕は海中から上空に巻き上げられながらも、コントロールを失わずに、再び海中に突入する。
オーウィルの左右の手が、それぞれグラムバーの右手と左手を掴んだ。その瞬間にヴィンドーが忠志に指示する。
(熱を送り込め。オーバーヒートで機能停止に追い込むんだ)
(ああ!)
もう忠志はヴィンドーに、「どうすれば」「どうやれば」と問わない。二人の意思は一体となっている。
「させん!!」
グラムバーのパイロットは何をしようとしているのか察して、一秒でも早くオーウィルに止めを刺そうと冷凍砲を連射したが、遅かった。グラムバーの両手の竜巻発生装置は高熱で破壊される。
竜巻の拘束から解放されたオーウィルは周囲の海水を沸騰させて、冷凍砲を高熱の鎧で弾きながらグラムバーに突進した。そしてジャーグの時と同様に、高熱を発し続けて精神力の勝負に持ち込む。
「燃え尽きろ!!」
オーウィルの発する高熱に負けて、グラムバーの緑の重装甲が真っ赤に溶け落ち、光を発しながら蒸発していく。超高温による物質のプラズマ化だ。そのエネルギーを回収して、オーウィルは更なるエネルギーを得る。
グラムバーの重装甲は熱を遮断するので、グラムバーの方からはエネルギーを吸収する事ができない。冷気から機体を守るための機構が仇となる。
「えぇい、こんな所では死ねん! 一時撤退だ!」
グラムバーは自ら装甲をパージして、オーウィルから離れた。そのまま海中から脱出して、巨大宇宙船へと帰還する。鎧を脱いだグラムバーは細身で、オーウィルよりも少し小さい。
(また逃げられた……!)
(よくやった、タダシ。深追いは禁物だ)
(分かってる。ああ、畜生。戦いの後は疲れてばかりだ)
戦いの緊張から解放された忠志に、どっと疲労が押し寄せて来る。また意識を手放すのは不本意だったが、そうせざるを得なかった。
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