第二の敵

 決意を口にした忠志に対して、国立は再び頭を下げる。


「本当に済まない」


 どうしてそこまで謝られるのか、忠志には分からなかった。彼はとにかく自分にできる事をやるつもりだった。リラ星人と戦える者は自分しかいないし、両親の仇も討ちたい。元より誰に依頼されなくても、戦いから逃げ出すつもりはなかった。

 謝る必要はないと忠志は国立に言おうとしたが、直前に轟音が響き渡り、ホテルが激しく揺れる。地震かと思い忠志は席を立ったが、ヴィンドーが否定した。


(地震ではない)


 揺れはすぐに収まり、それとほぼ同時に新たなレジスタンスの男性が、支配人室に駆け込んで来る。


「リラ星人の巨大ロボットが近くで暴れています! 早く避難を!」


 レジスタンスのメンバーは第一に国立を避難させようとするが、国立は彼等を制して忠志を見詰めた。


「君はどうする?」


 迷う忠志にヴィンドーが語りかける。


(タダシ、行くぞ)


 それだけで忠志には彼の意思が完全に伝わった。


「オレが倒します。皆さんは避難してください」


 忠志は堂々と宣言して駆け出し、正面玄関からホテルの外に飛び出した。



 ホテル前の道路を大勢の人が東から西に向かって走っている。人々が流れて来る元、東側に忠志が目をやると、数百メートル先のビルとビルの間から、緑色の巨大ロボットの姿が見えた。皆、あれから逃げているのだ。

 緑のロボットの全高はジャーグより少し高い程度だが、重装甲のため全幅は一回り大きい。いかにも強固そうな外見をしている。


(前のとは別の奴か? ヴィンドー、どうしよう?)

(あれは――)


 ヴィンドーが忠志の呼びかけに答えようとした時、緑の巨大ロボットが手近な高層ビルに向けて、両腕を前方に突き出した。直後、爆音と同時に衝撃波が走り、ビルが粉砕される。瓦礫が飛び散って、ビルは砂埃を立てながら、ガラガラと崩れ落ちた。幸いビルは忠志のいる所とは違う方角に建っていたので、瓦礫が飛んで来る事はなかったが、その威力に彼はたじろいだ。


(あ、あいつ、何をしているんだ?)

(分からない。特に意味のある行動には見えないが……)


 ヴィンドーは相手の意図が読めずに困惑している。緑色のロボットは忠志の見ている前で、目立つ建物を手当たり次第に破壊していく。

 その行動に忠志は焦りを覚えて、ヴィンドーに問いかけた。


(とにかく、これ以上街を破壊させる訳にはいかない! あの白いロボットは、今どこにある?)

(オーウィルは呼べば来る。強く「来い」と念じるんだ)

(オーウィル? それがあのロボットの名前か)


 ヴィンドーに言われた通り、忠志は白いロボットを思い浮かべながら、「来い」と念じ続けた。数秒後に空の彼方から轟音を響かせて、白いロボット――オーウィルが飛来する。

 緑のロボットはオーウィルに気付き、着地前に迎撃する。背面から両肩に二門の砲が移動し、砲口がオーウィルに向けられた。そこから白い弾丸が高速で発射され、オーウィルに直撃する。

 冷凍砲だ。弾丸は空気中の水分を凍らせて、白い軌跡を残す。


(やばい! 落ちて来る!)


 オーウィルは忠志の目の前の道路に墜落した。幸いにも避難者はホテルの前を通り過ぎた後で、押し潰された人はいない。

 三十メートル近くあるオーウィルが目の前に落ちて来て、びびっていた忠志だったが、ヴィンドーは全く動じずに告げた。


(早く乗り込め。敵は待ってはくれない)

(でも、どこから……)

(とにかく機体に近付くんだ)


 忠志がヴィンドーの指示に従って、道路に俯せに倒れているオーウィルに駆け寄ると、オーウィルは両手をついて少しだけ上半身を起こし、胸部ハッチを開ける。しかし、胸部と道路の隙間は大人が何とか通れる程度。潜り込んでいる間に、少しでも衝撃が加えられたら、そのまま潰されてしまいそうだ。


(行け。怖がっている場合ではない!)

(わ、分かってるよ!)


 忠志は恐怖心を抑えて走り、狭いハッチの隙間からコックピットに飛び込んだ。それと同時に彼の意識はオーウィルに移る。忠志は俯せの姿勢から素早く起き上がり、緑色の重装甲ロボットと対峙した。

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