O'wil【オーウィル】

@odan

プロローグ

略奪者の寄港

 こと座の一等星ベガが輝きを失った。それが全ての始まりだった。



 二〇二×年四月一日。その日、地球は異星人の襲撃を受けた。

 はるか宇宙の彼方より地球に飛来した巨大宇宙船は、何の通告もなく東京湾に錨を下ろし、関東平野上空に停泊。日米両軍の迎撃を物ともせず、世界中に「働き蜂」ワーカー・ビーを放った。


 「働き蜂」とは全長3m程度の無人エネルギー収集兵器である。その名の通り、熱や電気エネルギーを回収して、巨大宇宙船に持ち帰る役目を持っている。これは高熱に反応して、世界中の工場や発電所を襲撃した。何千万というおびただしい数の「働き蜂」の攻勢に、人類はなす術がなかった。


 各国は「働き蜂」の襲撃を避けるために、新たな発電所を地下に建設した。こうする事で、ようやく「働き蜂」の攻勢は収まったが、各国が経済や産業に受けた被害は甚大で、再起不可能に陥り破綻する国家もあった。

 一方で巨大宇宙船が停泊している、当の日本は……。


 日本政府は各国に先駆けて、宇宙船の宇宙人と交渉を始めていた。

 幸いな事に宇宙人は交渉に応じて、日本政府と話し合いの場を持った。宇宙人は地球で言う方面から地球時間で約30年かけて太陽系に来訪したとの事で、それに因んで「リラ星人」と命名された。

 リラ星人の話では、地球にはのために訪れただけであり、害意はないとの事だったが、「働き蜂」を止めるための条件として提示したものは、とても各国が受け入れられるものではなかった。

 それは地球の全エネルギー資源の供出。リラ星人が恒星間航行を続けるために、石油・石炭・ウラン・天然ガス、その他の重要な資源を全て差し出せと言うのだ。

 日本は外交ルートを通じて各国にこの条件を伝えたが、あまりにも横暴な要求に大多数の国は反対して、徹底抗戦を主張した。「リラ星人は寄港した星から略奪を行う宇宙海賊である」と。

 しかし、日本は自らリラ星人の要求を受け入れ、その代わりに生活に必要な最低限の電力をリラ星人から供給された。


 こうして地球から全てのエネルギー資源を回収するまで、リラ星人が地球――関東上空に滞在する事になったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る