第肆章 2 「敵地(カーネーション)3」


 思いつめた雰囲気は彼らにとってちょうどいいものだと思う。彼らには、こんな経験がなかった。でも、似てるようで似てない経験はあった。危ない任務や、殺されるくらいの勢いで、暗殺なんて言えないくらいの、激しい戦闘も多く繰り返してきた。それでも何とか、その一つ一つをクリアして、遂行して、殺すことは成功してきた。


 そう、その通り。


 一回も、失敗したことはなかったのだ。

 彼らは一度も、負けたことはなかったのだ。負けることで得られる経験も考えも何もかもが分からないほどに成功し続けたことがあるからだ。エリートゆえのジレンマとも言えるのだろう。


「今回だけはやられてはいけない」



『離陸まで残り30秒』



 その瞬間、いいや、少しだけ長い数十秒の間に皆の意思が固まっていく。

 それも、ほんの少しだけ一緒に、なっていく。


『離陸まで残り10秒』



 ようやく飛ぶのだ、運命の時へ。



『離陸まで残り3秒』



 2



 1



『離陸開始』


 瞬間、とてつもない轟音がみんなの耳から脳へと振るわせていく。


 

ごががっがああああああああああああ‼‼‼‼


 得体のしれない機械音とともに、機体が浮遊し、崩れない城であるビルさえも揺らしながら下へエネルギーを放出していく。



『ダブルジェットエンジン点火に成功。異常はありません』



「よし、行くぞ」



『高速飛行リミッターを解除。すべて内部電源から供給』



『供給に成功。各エリアの緊急座席を展開。総員は直ちに着席してください』



『電磁パルス砲、超電磁砲、機関銃、エネルギー砲、他兵器、すべてオールグリーン』



『BK19、発進』



 重力が全身を包み込み、潰される細胞、混乱する頭。人間が乗れるような速度では飛んでいなかった。


「す、っごいな、このスピード」

「さすが、に、ヤバ、いわね」

「まだ試作段階なんだよ、理論上は飛べるけど」

「所長はひ、平気そう、ですね」

「ああ、乗ったことあるからね」

「そうなんですか⁉ 姉さん言ってくださいよ‼」

「ほら、大丈夫、だ」


 すると、彼女が向けた目線の先にスクリーンが現れる。


『衝撃緩和装置起動。重力を軽減します』


 刹那だった。

 体にかかっていたすべての重みが自分の体から解き放たれる。むしろ、体重までもが軽くなったのではとも思わせるほどに、その不思議な装置は起動したのだ。



「お。なんだ、急に軽くなったぞ」

「ほ、ほんとだわ」

「うおそ、……でも隣のゴロもなくなってほしいわ」

「うる、せえよ‼」

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