Episode FIVE《国家機密と秘密保持》

 2【国家機密と秘密保持】


 B3のエース「No,007〈漆黒の死神〉」の登場により、あっさりと片付いた今回の任務。久しぶりの強敵に、さすがのゴロもクハもお疲れのようだった。

「はあぁぁ、疲れたわぁ」

「いやぁぁーー腰が痛い。バキバキだよぉ」

 両腕を天に向けるクハに、腰を摩るゴロ、そしてその二人など目に留めず歩くナナ。このグループのリーダーなのかと思わせる動きをするナナではあるが、本物のリーダーは無表情の少年ではなく。

「ほんと、リーダーさんがどこかでしくるからぁ……まったく勘弁してくださいよぉー、クハっさん」

 その言葉の主を睨みつけて。

「あぁ? 大体ね、あなたが、助けますよーって飛び出していくから、あたしが弾打ち込むこと出来なかったのよ!」

 眉毛を上がらせるゴロは。

「んだとぉ? 先に任務失敗したのどっちだよ! 近隣住民に見つかっていたらもっと面倒なことになってたぞ!!」

 それをチラ見してもなお気にしないナナに腐った話題が移る。

「ねえ!」

「なあ!」

「「どっちが悪いと思う??」」

 聞かれた質問をそのまま聞き返すようにして、ナナが口を開いた。

「うるさい、自分で考えなよ」

言い返された二人が沈黙の末。


「「あ、」」


 悪いのは二人とも。それを理解した。

 即答であった。


「ごめんなさい」

「悪かった」


 正直、リーダーがではなく、常に無感情なナナが決断や判断を下すこのグループは一体何なのか。一番の反省点はそこにあると、僕こと筆者は思っている。 だが、ナナはそんなに深く考えていなかった。

 ただ、うるさかった。本当にそれだけ。

 そんな男がエースって、大丈夫なのだろうかと筆者はまたしても思う。



 そんなこんなで帰路につき、札幌駅方面へ歩いて行く。

 彼らの所属する国家機密組織「PARALLEL」は、国家公認の秘密組織である。

この組織では次世代製品や、日米、露、中間などの国家間での秘密会議の護衛や、世界規模の計画を実行に移すなど、その他国家間の任務を任される特別優遇をされている組織である。

また、その中で行われた行動や計画、秘密事項を故意でも、そうでなくても、見てしまった場合には強制的に殺害対象リスト(KILL LIST)に名前が載り即日、殺害任務が証拠を抹消する部隊(この三人が所属する秘密保持暗殺部隊「B3」など)に通達され実行に移される。このような情報を得るには様々な鉄壁とも言われるセキュリティを越える必要があるのは事実である。だが、最近ではそれを無理に知ろうとする民間の組織や、誤ってその次元にたどり着いてしまった人間、また裏稼業の人たちを通して耳にしてしまった人間が増えており、より早急に殺害しなくてはならない。

この民主主義である日本ではおかしな話だが、この行為は国家公認。また、警察も黙認している行為である。


「まあ、それにしても刺激的だったわね」

「久しぶりで少し驚きはしたけど、なんか――嬉しかったなぁ、怖さはあったけどなぁ」

「…………」

 仕事の感想を口にする一流の暗殺者二人に対して、沈黙を守る天才暗殺者一人。

夜によく見るこのくだりは今日もやっぱり行われていた。

 夜中、23:00の札幌豊平川沿いの道路。交通量は30秒に一台通るか通らないか程度。とても静かな札幌の夜空にはぽつりぽつりと星が煌めいていた。

「このあとは反省会よね、ナナ」

「……。」

「ねえ、ナナ?」

「……。」

「ねえ~、ナナく~ん、聞こえてるぅぅ~~?」

「聞いてないぞ、エースさんは。ほら見てみろ」

「えぇ?」

「夜空に見とれてる……」

「……。」


 夜空を見上げ、真っ黒な瞳には煌めきが反射して、どこか切ないナナの姿。クハやゴロの声すら届いていないナナの耳には聞こえている一つの音。

 あの日の……k


「ナナッ!!」

「ッ!?」

「お、気が付いたぁ」

「あなた聞いてる? あたし、話しかけてます、そんなに綺麗かな……星空?」

 あなたよりは綺麗でしょ、と言いそうになり笑い出すゴロには目を向けず、クハに向かって口を開く。

「いや、まあ。ごめん」

「いや、別にいいのだけどね。ほんとに、こんなにポカンとしてかわいくしているのにあんなに強いなんて、さっぱりだわ」

 別にただポカンとしているわけではない。

「いやー、目が細くて、睨みつけてるようで怖いから、全然かわいくないけどな」

「うそ、ゴロ。あの可愛さ分からないの?」

「は?」

 二人の他愛のない与太話も気にせず歩くナナ。さっきの「ごめん」という言葉はどこへ? ともいえる勢いで気にせず歩いている。ずれすぎて大丈夫なのか、こういうところも心配の一つである。


 そして、いつの間にか本社に着いてた。

 前面ミラーで覆われている高層ビル。実はこれ、普通のミラーではない。炭素を特別な方法で結合し、正四面体的な共有結合のダイヤモンドよりも丈夫で硬い極限度の耐久度を持つ素材ですべてを覆っているシェルターのような建物である。

 また、この建物の名前は偽物である。

 この建物、組織の表向きの名前は「国営図書館」。公式発表では、中には歴史的重要書物や世界的な教典などの世界規模で最重要とされる書物などが保管されると言われている。噂では、天照大神(アマテラス)が瓊瓊杵尊(ニニギ)に授けたとされる宝器、「八咫鏡」「天叢雲剣」「八尺瓊勾玉」である三種の神器がここに収められているのでは、とも言われている。世界有数の最高位のセキュリティを持つ場所である。


「あーあ、着いちゃった」

「反省会だー、帰りたーーーい!」

「……。」

 会社の入り口には指紋認証、虹彩認証、パスワードなどのセキュリティを越え、100ḿもある曲がり曲がった廊下を歩き、ようやくロビーに入る。

 フロントには武装した人間が5人。全員がAK―47を持ち、仁王立ちをし、さらに十人のスーツ姿の男が等間隔で配置され、異様な雰囲気を醸し出している。

「敬礼!」

 そのうちの一人が叫びだし、手を頭に。

「おつかれさまでした!!」

「ええ」

「うーっす」

「……。」

 そう。この三人は多くの人間から尊敬され、立場上もかなり上の存在。その啓礼の環も越えて、エレベーターに乗り。

「あー、あたしこのエレベーター嫌いなのよね」

 そう言った瞬間、体中に重みがのしかかる。

「う、がぁぁ、も、や……だ」

「ぁぁ、こ、れは。ど、うかん」

 このエレベーター、時速にして60kmに近い、磁石を使って移動するその高速に二人の体が少し悲鳴を上げる。

「ぁなた、よ……く、へ、いき、ね?」

 ここで何もなさそうに立っているナナはもう異次元の領域である。

 数秒で三十三階に到着し、真っ白なフロアを進む三人。体にこびりつく黒い血がここのフロアでようやく目立ち出す。

「あ、ようやく着いた。14会議室」

「いやだわね」

「仕方ないでしょ、まあ怒られるのは嫌だけど」

「も~う」


 扉を開くと、地獄ともいえる反省会が始まった。


 もちろん、誰が責められるのかは言うまでもない。

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