肉体

矢口晃

第1話

肉体と肉体が、音を鳴らして激しくぶつかり合った。

 間に衣一枚挟まぬ素肌同士が、こすれ合うように密着した。

 一方は、そのふくよかな胸のうちに頬をうずめ、一方はその頭を、決して離すまいと力を込めて受け止めた。

 二人の汗が、一つになった。密着した体を通じて、二人は、二人の鼓動を感じ合った。

 やがて、一方は、もう一方の体を激しく突き上げ始めた。突き上げられた一方は、苦悶の表情を浮かべながら、全身でそれを受け止めた。それでも強烈な突き上げは終わらず、受け止める側の意識は、この時朦朧とした靄の中に掻き消えようとしていた。

 あと寸でのところで、いよいよ出ようとしていた。この時、二人の意識は、ともに同じように白濁していた。一方は突き上げることに、一方は受け止めることに夢中だった。お互いにぎりぎりの中で、お互いを試し合っていた。

 女は、大きな声を上げた。

 男は、固唾を飲んで見守っていた。

 堪えれば堪えるほど固く、重く感じるその体を、受け止めることですでに精いっぱいの状況だった。

 ある時は、大胆に塩をまき散らした。そのたびに、大きな声が上がった。

 ある時は、頬を思い切り叩いた。叩かれた側の反抗的な敵意ある眼差しが、かえって両者を熱くさせた。

 攻防は、常に攻める側の優勢であった。守る側は、身を反らせ、足の指先にまであらん限りの力を張り巡らせ、ぎりぎりのところでどうにかその理性を保ち、体制の転換を試みていた。

 しかし、決着は着いた。あまりにもあっけないといえば、そう言わざるを得ないのかもしれなかった。

 ただ、それを終えた両者の表情には、ただ晴れ晴れとしたもの以外、何もなかった。

 その短い時間の中に全てを出し切ったという満足感が、両者の上場を満たしていた。

 まだ、息は上がっていた。依然として、体は熱かった。

 行事は、勝者に勝ち名乗りを与えた。

 次はいよいよ、結びの一番。横綱の登場である。

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肉体 矢口晃 @yaguti

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