青い光のストライキ
秋村ふみ
青い光のストライキ
どこかの街の片隅で、男と女の争う声。女は殺意のこもったナイフを、男の胸に突き刺した。
「あんたが全部悪いのよぉ!あんたが…あんたがぁ!」
女はそう泣き叫んだ。警察に両腕の自由を奪われながらも、物言わぬ男の遺体に向かって必死に叫び続けた。
男と女はネットで知り合った仲だったが、男にはネットで知り合った女が大勢いて、そのことが女に殺意を抱かせた。
ある街の高層ビルの屋上から、一人の青年が身を投げた。屋上に遺された遺書にはこう書かれていた。
「もう耐えられない。先立つ不幸をお許しください」
今日も赤いサイレンは鳴り止まない。そのサイレンに導かれて野次馬が集まっていく。
「優しくて、おとなしい女性でしたよ。とても人を殺すような人には見えませんでした。そんな人がなぜあんなことを…と思ってます。はい」
「明るい青年でしたよ。会社でいじめ?さあ…そんな様子はありませんでしたけどねぇ。いったい何が彼を追い詰めたのかはわかりませんが、とても残念です」
報道陣のインタビューに応じた人々は皆、無意識になのか目を反らしながら語っている。
世も末だと呟く人々。こういうニュースが毎晩のように流れては、そう感じても不思議ではないだろう。それにしても、いったい何がこんなにも、世を狂わせてしまったのか…。
あるニュースキャスターはこう語った。
「スマートフォンの普及で、ネットによる犯罪がますます増えてきましたね。人とのコミュニケーションが容易になった反面、トラブルを生みやすくなった。両刃の剣ですよ」
また、ある老人はこう語った。
「最近、孫は機械にばかり夢中になって、わしらの話を聞くときも機械を見ながら相づちを打ってばかりでな。まるで私なんか相手にされてないと、そんな気分になるんじゃ。嫌な世の中になったもんだ」
ネットが普及するまで、内気な人々は心の中に本音を隠して生きてきた。それが今では、相手の顔を見ずに話せて、匿名で本音を打ち明けられる。ネットこそが本当の自分を晒せる空間なのだ。影でコソコソするのが容易になり、それがイジメに発展する。ビルから身を投げた青年を追い詰めたモノはまさにそれだった。
その後も犯罪やいじめによる自殺が次々と起こり続け、目を赤く染め上げた人々は皆、それをネット普及のせいにした。それに耐えかねたスマートフォン達は、ついにストライキを起こした。
ある日突然、世界中のスマートフォンが一斉に動くのをやめた。スマートフォンだけではない。パソコンなどの通信モバイルは全て動かなくなり、世界中が混乱した。
外国との取引が出来なくなったと嘆く会社員。ネット上で知り合った、顔も名も知らぬ友達と突然の別れを強いられた引きこもりの少年少女。ネットが途切れたことによって、いろんな人々の繋がりが途絶えた。
しかし、そんなことは関係無しに、田舎の老人は近所の仲間と世間話に華を咲かせている。
「最近、うちの孫がワシに話しかけてくるようになったんじゃよ。どうしてだか知らんが、嬉しくてなぁ…」
青い光のストライキ 秋村ふみ @shimotsuki-shusuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます