第32話 英雄の誕生秘話
「さて、その前にホノムラくん。この世界にある他の大陸を治めている4人の皇帝の事はご存知かな?」
「あ、はい。えっと……東の大陸の、武芸百般の『覇帝』。西の大陸の、武道の神と言われる『武帝』。北の大陸の、孤高の強者『魔帝』。あと、南の大陸の全知たる賢者『賢帝』……この4人が、代々世襲制で治めているんでしたよね」
その辺は、歴史書に書いてあるのを読んだ事がある。
「そう、正解だ。よく知っているね。しかし、疑問に思わなかったかね?何故、この中央の大陸は彼らに並ぶような『帝』は居ないのか、と」
……確かに、言われてみれば。
以前調べたところ、この中央大陸の王家はまだ王家としての歴史も浅く、王の人柄もありあまり強権というイメージは無い。
「確かにそうですよね。武力の問題で言うなら、ここは各所から狙われそうなものなのに」
世界の中央に陣取る大陸を支配できれば、何かと旨味は大きいだろう。
「それはね……昔、東西南北の大陸間で、取り決めが行われたからだ」
────第32話 英雄の誕生秘話────
「取り決め……ですか?」
「うむ。300年前、今ほど世が平穏で無かった頃……東西南北の大陸の間では頻繁に争いが起きていた。そして、他の4大陸と違い強い指導者の居なかったこの中央大陸は、日夜戦場と化した。ホノムラくん、何故この大陸が戦場にされたか、その理由が分かるかね?」
猛は数秒考え込んだが、すぐに答えは出た。
「……この中央大陸が、どの大陸からも近く、故にこの大陸を制すれば他国への侵攻もグッと有利になるから……でしょうか?」
「正解だ」
テラフォートは、重々しく頷いた。
「何せ、どの国にも近いのだ。自国からのあらゆるモノの供給も容易であるし、他国へ侵攻する際も移動距離が少なくて済む。まさに最初の狙いにするにはうってつけだった訳だ」
理屈は分かっていたが、猛は胸糞悪さを感じずにはいられなかった。
ただ立地が良く、ただ力が無いからというだけで、欲望をギラつかせた他国の戦争に巻き込まれるだなんて。
「ただ、それぞれ強力な指導者を抱えていた各大陸間の実力は拮抗していて、戦争は長引き、各大陸は疲弊し、戦争は泥沼状態と化していった。
そんな時、当時の南の『賢帝』がある提案をしたのだ。『我々には既に各々が支配する領土がある。それ以上を目論み、敵国の民だけでなく、自国の民を、そして無関係な国の民を傷付け続ける事はもはや愚挙なり。中央に我々の合議で王を立て、各大陸からの支援を寄せ復興しよう。そして、二度と彼の地が戦場にならぬよう各大陸で約定を締結するのだ』……とね。
戦争続きで自国の兵力を削がれつつあった他の大陸は、ここが潮時かとこの提案に乗った。そして、各大陸の皇帝達の人選の元、この国で当時最も聡明で穏健であった貴族が王として選ばれ。この中央大陸は、どの大陸も二度と手を出してはならぬという取り決めが行われ、戦争はひとまず終結したのだ」
「なるほど……だから、中央の大陸は王家の歴史も浅く、それでいて他国から狙われる事は無くなった訳ですね」
他大陸のように『皇帝』が居ない、つまり、強大な武力は抱えていないのに他国から侵略されないのはそういう背景が有ったのか。
「しかし、去る事1年半前。その取り決めが反故になりかねない事態が起きた。『我々が闇に籠もる時代は過ぎた。これからは我々が力をもって世を支配する』と息巻く連中が突然現れ、この国は混乱に陥った。その連中は【ダークメイト】と名乗り、国を支配せんと攻撃を仕掛けた」
【ダークメイト】……1年半前にも、そんな組織が有ったのか。
「他大陸の皇帝達は、勿論この連中を快く思わなかった。他大陸との相互監視で保っていた約定が崩れかねない、とな。
だが、足並みを揃えるには至れなかった。突然こういう事態が起こると、決まって陰謀論が起こるものだ。『あの連中を裏から操っているのはあの大陸だ』『いや、あの大陸こそが支援をしているのだ』などとな。各大陸は互いに『他の大陸は約定を反故にし胡散臭い連中を裏から動かして中央大陸を手にしようとしている』と疑心暗鬼になり、緊張が高まっていった。
昔のように、各大陸が入り乱れて戦争が再び起こるのも時間の問題という所まで来た……そんな時に、奴ら【ダークメイト】に対し著しい戦果を挙げ、敢然と立ち向かう者がこの国から現れた。それこそが……」
テラフォートはアイシャの方を見て、アイシャはそれに反応するように頷いた。
「そう、私だ。と言っても、私はただこの国を、皆を守りたくて必死だっただけだ。それが結果的に、やつらの戦力を大きく削ぐ事に繋がったがな。それが評価されて、私は『五大陸会議』に王のお付として呼ばれたのだが……」
「『五大陸会議』?」
「そ、5年に一度開かれる、各大陸のトップが一堂に会する会議よ。でもその時は中央大陸の危機って事で例外として臨時で開かれたのよ」
猛の疑問に、アイシャに代わってイリカが答える。
「でね、そこでアーちゃんは四皇帝に向かって大見得を切って見せたのよ!『中央大陸を救う気があるなら今すぐ手を貸して欲しい。しかし腹を探り何かにかこつけて中央大陸を奪わんとするならば、【ダークメイト】の連中共々私が斬り捨てる!」ってね!」
「ええっ!?」
各大陸のトップ、つまりこの世界で最も偉い人達にそんな事言っちゃったのか!?
「まあ……アレは私も少し反省している。だが、話し合いが膠着してな、そうしている間にも民がおびやかされている事実に我慢がならなかった。だが……」
「アイシャちゃんの言葉に感服した覇帝が、『いっその事我々全員が直々に奴らとの戦いに赴こう。あんな連中と裏で繋がっているなどという事が無いというのを、我々全員で証明してやろうではないか』って言って、それに同意した四皇帝達が全員【ダークメイト】との戦いに参戦。全員が一騎当千の力を持つ四皇帝達が参戦した事で圧倒的な実力差で敵は全滅、戦いは終結したって訳なのよ〜」
「そして、中央大陸を狙う集団が現れたという衝撃と。四皇帝全員が直々に戦いに赴く事になったのが、当時一介の騎士でしかなかったアイシャくんのひとことだという衝撃を踏まえ、奴らの名にちなんで【暗黒の衝撃)と呼ばれるようになった……という訳だ」
「それで、アーちゃんは四皇帝達を動かし、共に戦って中央大陸を救った【英雄】として称されるようになったってワケよ!すっごいわよね!」
キラキラと輝く眼差しのイリカの言葉で、解説のリレーは締め括られた。
「……なんというか。アイシャさん、凄いです」
権力だけでなく、実力も持つ皇帝達に直接啖呵を切る胆力と、悪の集団を次々打ち破って行った実力。
猛は、改めてアイシャに感心する事となった。
「まあ、イ、イリちゃん。あまり持ち上げないでくれ。しょせん私は勢いで事を成したようなものだ。【英雄】と呼ばれまくるのは、正直むず痒く感じて……」
「あーもう!そういうアーちゃんだからこそ良いのよね〜!」
うん、こればっかりはイリカさんに賛成だ。
凄い人なのに、それを鼻にかけないところが良いよね、アイシャさん……。
こんな感じに話に花を咲かせつつ、夕食は賑やかに進行していった。
そして、数時間後。
「2人共来たわね。ま、掛けてよ」
「失礼します」
屋敷の一室に招かれ、イリカに勧められるまま猛とアイシャはソファに腰掛けた。
「ほんとはアーちゃんだけに話すつもりだったけど……アンタにもちょっとだけ聞かせちゃったから、役に立つかは分からないけどせっかくだし手伝ってもらうわ。ま、それがアンタを呼んだ理由でもあるんだけど」
あ、この前何か言いかけてたよね。
追放された魔導師を追うよう頼まれた、とか……
「そっちのオトコにはちょっとだけ話したけど、私達が卒業後すぐにここに戻って来たのは、学園長から頼まれて、かつて学園から追放された過激派の魔導師を私達の手で捕らえる為なのよ」
「む、そうだったのか」
「ええ、そうよアイシャちゃん。その男の名前は『ギノクレス』。以前学園で教師をしてたんだけどね、過激な思想を生徒に植え付けようとして学園から追放されたアブナイ奴なのよ」
魔法学園の元教師か。また、手強そうな魔法使いか……
「そいつが中央大陸に向かったっていう情報をキャッチしたから、私達もここに来たってワケ。それで、どうかしら?何か、突然見知らぬ魔法使いがこの辺りに来たなんていう事とかあったりしない?」
いやいや、そんな都合の良い事……
あっ。
「あの、そう言えば……数日前、青空魔法教室って感じの名目で……魔法使いの人がここに来てましたけど」
「えっ?」
まさか、もしや……
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あとがき
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