2.馬鹿王子叱責される
──ギルモア王国の国王私室。
王妃のすすり泣く声が響く中、国王が怒りの形相で
国王に呼び出されたフェルナンドは、なぜ二人がそんな様子なのか検討もつかずに首をかしげていた。
「おっ、おまえは……っ、自分がなにをしでかしたのか分からんのか! あのような公の場でロクサーナ嬢を侮辱したのみならず、エヴァンジェリスタ公爵家をウジ虫と呼称するとは!」
ようやく口を開いた国王に怒声を浴びせられ、フェルナンドは思わずのけぞる。
しかし、すぐに気を取り直して、得意げに言った。
「事実ではありませんか。エヴァンジェリスタ公爵家は、王家の威光に寄生する害悪。わたしはそれを駆除しただけのことです」
「……あきれてものも言えぬわ」
「そうでしょう。ロクサーナと公爵家の
我が意を得たりと喜び勇んで受け答えたフェルナンドを
「なぜ、この話の流れでそうなるのだ。おまえはまともな会話もできないのか」
「なっ、いくら父上でも失礼です! わたしは父上がロクサーナと公爵家をあきれたとおっしゃったので、そう言ったまでのこと」
「わたしが言ったのは、おまえのことだが? 今や王家はエヴァンジェリスタ公爵家の後ろ盾なくしては立ちゆかぬ。それを見越してのおまえとロクサーナ嬢の婚約だったというのに、おまえが全部台無しにしてくれた。この不始末、いったいどうするつもりだ」
思ってもみなかった国王の詰問に、フェルナンドはあせった。そして、なんとかこの事態を収拾しようと試みる。
「し、しかし、わたしには愛する者がいるのです。デシリー・エカピット男爵令嬢は、ロクサーナのような
「なにを言うのです。ロクサーナ嬢は今でも十分かわいらしいではないですか。それを醜女などと……王族としての品位を疑いますわ」
侮蔑の目で見てくる王妃にたじろぎながらも、フェルナンドは続けた。
「いいえ、豚のように太った女など、王族にはふさわしくありません。公爵夫人のような美女なら分かりますが……」
「豚? この期に及んであなたはまだロクサーナ嬢を侮辱するのですか? 少しふくよかか、ぐらいではありませんか。それに、ロクサーナ嬢は公爵夫人の若い頃にそっくりですよ」
「ああ、そうだな。女性の容姿のことを言及するのはなんだが、公爵夫人も若い頃は少しばかりふくよかだったな」
憤慨する王妃に、国王が同意する。それをフェルナンドはあぜんとして見つめていた。
「……フェルナンド、おまえは常日頃からそのようにしてロクサーナ嬢を貶めてきたのだな。彼女から提出される証人付きの被害届のとおりにな」
国王が重々しく罪状を突きつけると、フェルナンドは慌てて言い訳した。
「なっ、違います! それはロクサーナが買収して証人としていただけです!」
「ほう、ロクサーナ嬢からの被害届は数年にも及ぶが、その証人をすべて買収したと申すのか?」
「そっ、それは……っ」
ロクサーナがそこまで周到だと思ってもいなかったフェルナンドは口ごもる。
その様子を国王と王妃が冷ややかに見やった。
「し、しかし、ロクサーナはデシリーをいじめたのです! このような暴挙、とうてい許せるものではありません」
フェルナンドはこの状況をなんとか収めようと訴えると、国王があきれたような顔になった。
「まだそのようなことを言うのか。そのことなら、パーティ会場でロクサーナ嬢が否定したであろうが。実際、彼女とおまえが通う学園は離れすぎておる。そんなことは不可能だ」
「それなら、学園の生徒を買収してやったに違いありません! あの女ならやりかねない!」
その途端、表情を消した国王に、決定的なことを言ってやったとフェルナンドはふんぞり返る。
「──それはないな」
「……は?」
国王の言うことが理解できずに、フェルナンドは聞き返す。
「ロクサーナ嬢は、おまえのことを嫌いきっておる。おまえとどこぞの誰かが結ばれるようなら、諸手を挙げて歓迎するだろう。……おまえもパーティ会場で、ロクサーナ嬢がわたしに婚約解消を何度も申し出ているというのを聞いているはずだが?」
「…………」
そんなことはとうに記憶の
「虐げたというなら、むしろおまえだろう。ロクサーナ嬢はもちろんのこと、学園に通う貴族子息、令嬢の家から王宮に苦情が来ておる。デシリー・エカピット男爵令嬢も、おまえの
「そ、それは、ロクサーナが買収して……っ」
フェルナンドがもごもごと苦しい言い訳をすると、ついに国王は
「まだ言うか、この卑怯者めが! 抗議はエヴァンジェリスタ公爵家の敵対勢力まで満遍なくある。これをどう買収できるのか言ってみろ! 今度という今度は許しておけん! おまえはしばらく謹慎しておけ!」
──そしてフェルナンドは、国王に呼ばれた近衛に彼の私室へと連行された。
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