奇人変人が集まる我が学園

あぷろ

武明くんと先生


 『俺たち、あんたに一目惚れしたんだぜ。だから多少無理してでもあんたを手に入れたいと思ったんだ』

 ――嘘だ・・・・・・っ。

 『そうそう』

 『キレーだし可愛いし』

 『おまけにどんどん色っぽくなってくるし――』

 男達の笑い声。

 『・・・・・・ぁ・・・・・・う、そ・・・・・・』

 『何が嘘なもんか。こんなに惚れているのに』

 『好きじゃなかったら、男相手にこんなことできないだろ。いくら綺麗でもな』

 云いながら後ろにいる男にぐっと腰を押しつけられ、思わず声が漏れそうになる。

 『・・・・・・っ』

 ――嘘だとわかっているのに。

 こんなことはこの男達の手段だとわかっているのに。

 この男達に弄ばれてきた身体と心は確かに悲鳴を上げていて、

 『・・・・・・す、き・・・・・・? わたしを・・・・・・?』

 ――何かにすがりつきたくなる。

 『ああ、好きだぜ』

 『・・・・・・っ』

 自分の前にいる男の予想外の真剣な瞳に、すがりついている手に力が入った。

 『・・・・・・うそ・・・・・・っ んっ・・・・・・あ・・・・・・』

 『確かにあんたを無理矢理犯したかもしんねぇけど、傷をつけるような乱暴なことはしたことないつもりだぜ?』

 『――気持ち良いことばっかりだったろ?』

 確かに・・・・・・この男達は自分の快楽だけを求めたりせず、執拗に執拗に快楽を引き出し続けた。

 そして、触れてくる手は意外と優しかった・・・・・・。

 ――ああ、ダメだ・・・・・・。

 『・・・・・・あ・・・キス・・・し・・・て・・・』

 堕ちる・・・・・・。



 「――で、先生はどうしたい?」

 読み終えて、真剣に訊いてくる男子生徒に思いっきり溜息を吐きたくなった。

 男同士の官能小説を読まされて何て云えば良いんだろう?

 「どうって・・・・・・」

 「この小説のモデルは先生だから、先生の望む通りの結末にする。先生がハッピーエンドが好きならハッピーエンドにするし」

 そりゃあ自分がモデルだと聞かされればハッピーエンドが良い。

 良いに決まっているけど。

 何で男同士?

 しかも襲われる方?

 「そりゃあ・・・・・・けどなぁ・・・・・・クズなんだろ?」

 「そう」

 男子生徒が頷く。

 「先生を襲っている奴らはクズもクズ。先生の身体だけじゃなく、心も蹂躙して、自分達の云うことを聞かせようとしている。そうやって犠牲者を増やしてきた――だけど先生が望むならそんなクズも初めて愛を知った、ということにしても良い」

 「・・・・・・」

 そう、個人的には自分がモデルというキャラクターにはあまり酷い目にはあって欲しくない(いや、充分酷い目には遭っているが!)けど、作品的には――

 「そうするとご都合主義っぽくならないか? あまりご都合主義というのもな・・・・・・」

 「――わかった。これは先生の云う通り閉じられた世界、終わらない夜ということにする」

 「そ、そうか・・・・・・」

 「相談して良かった。また来る」

 そう云うと男子生徒は自分の小説を持って、職員室を出て行った。

 な、なんだったんだ、あれは!?

 呆然とその背中を見送っていると

 「西条武明。芸術科の生徒ですよ」

 先輩の教師に声をかけられた。

 「いやぁ、驚かれたでしょう。新任早々、芸術科の生徒に絡まれるなんて。でも、まあ、奴らは変わっているだけで、害はないですからな。あまり気にしなくて良いですよ」

 「はあ・・・」

 「それで、何を読んでいたんですか?」

 はい、とプリントを手渡しながら同僚の女教師が横から訊いてくる。

 「何って――・・・」

 ある教師が殺人の容疑をかけられて刑事二人に取り調べと称して代わる代わる犯される話です・・・――って云えない!

 「いや・・・たいしたことは・・・」

 「?」

 不思議そうに首を傾げる同僚に、ひきつった笑いを返すしかなかった。




                終

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