第六話「異形なる本性~コードネーム『魔神竜』~」

「これが! 俺の! 本っ気、だあああっ!

 破滅の、サンダーデストロイヤァァァァァァァ!」


 三治の電撃は辺り一面を焼き払い、彼は勝利を確信した。


「ぐぇあーっはっはっはっはっはっはぁ! どうだ見たか変態不審者野ろ

「やっぱダメだったか」

「おうっ!?」


 三治は己の耳を、そして目を疑った。

 電撃で焼き払ったはずの着ぐるみ男の声が聞こえ、それらしい黒焦げの塊が見えたからである。

 かつて着ぐるみだった塊はやがてボロボロと崩れていき、やがてその中身が顔を出す。


「やれやれ、5800万円の費用と7年半の月日が初陣の一秒で消し炭とはな。……流石、特大凶(ハズレ)でも討魔玉は討魔玉か」


 焼け焦げた塊の中から現れたのは、いかにもガラの悪い異様なな風貌の男だった。


 灰銀の逆立つ短髪、若干筋張って長身痩躯、面長で頬は痩け、鋭い目付きに犬歯だらけの大口。

 だが、男の風貌を異様たらしめる最大の要因は、体格でも顔立ちでもなく


「て……てめえっ……生きてやがったのかっっ!

 いや、それよりも……



 なんなんだ、その外見(ナリ)はっ!?」



 男の全身が、徐々にヒトならざる何かへ変異しつつあるという事実に他ならず。

 三治は本能的な嫌悪感に苛まれ、改めて確信した。

 最早自分には、この男を滅ぼすか、この場から逃げ出す以外に道はないと。

 

 一方、異形の男は変異に一区切りをつけていた。

 

「ああ、まあ、見ての通りだよ」


 幾らかヒト型は維持していたが、所々黒い鱗に覆われ外骨格が発達し尾や翼らしき突起まで生えたその姿は、

 呪いか何かでドラゴンになりかけの人間とでも言うべきか。


「これが俺、"魔神竜"の本性だ。

 まあ、これでもまだ序の口、起承転結の起が終盤に差し掛かった程度だがな」

「そ、それもトーマギョクとやらの力かっ!?」

「いや、全然? 俺のは討魔玉関係なく、改造されてこうなっただけだ。

 ほれ、入社したら仕事に必要な道具を支給したり資格取らす会社ってあるだろ? あれみてぇなもんだ。

 因みに魔神竜てのも上から貰ったコードネームだから本名じゃねぇぞ」

「な、なるほどなっ! つまり、お前のその姿はトーマギョクよりゃ格下ってわけだ」

「まあ、そうと言えばそうもなるわな。ただ――

「なら安心したぜ! そんならこっちのもんだ!

 お前は俺の石ころから得た力より格下!

 つまり格上の俺がお前に負けるわけがねぇ!

 この勝負、俺の――

「負けだよ」

「ぬおあっ!?」

 三治の拳は魔神竜を粉砕する筈だった。

 だが拳に手応えはなく、そもそも魔神竜は姿を消していた。

「き、きき、消えやがった!?」

「いいや、違うなぁ。消えたんじゃねぇ。見えなくなってたのさ」

 虚空から声がしたかと思うと、宵闇より暗い漆黒の煙か靄(もや)が集合し、消えた筈の魔神竜が姿を現した。

「コードネームってなぁ、単なるカッコつけの飾りじゃねぇんだぜ? 少なくともうちの場合はな。

 俺は"魔神竜"……竜(ドラゴン)で、かつ魔神(ジン)なんだぜ?

 多少妙なことしようが不思議じゃねぇだろ」

「ジンならランプか指輪にでも引き篭もってろっ!」

「ほう、魔神(ジン)と聞いてランプのみならず指輪が出るか。バカにしちゃ上出来だな。

 だが生憎と、俺は特別運が良かったクチでなぁ」

「……? ど、どういう意味だっ!?」

「ああ、すまねぇ。言い方が悪かったな。

 俺は優しくて慈悲深い主に巡り合い、自由を授かったのさ。

 狭苦しいランプの中になんて居なくていい、ってなぁ」

「だったら世界旅行でも行ってろ! んでそのまま帰って来んなぁ!」

「悪いが生憎と派手な遠出は趣味じゃねえもんでな。

 そも、旅行なら生まれてこの方延々続けっぱなしだからわざわざ行く必要もねえしな」

「……どういう意味だ?」

「わかんねぇかなぁ……人生だよ。己の生涯っつー旅路を進むのは、命あるもんの宿命だろ?」

「……いい年こいてよくそんなクセェ台詞が吐けるなぁ。俺なら首吊ってるぜ」

「そうか? 銀河性豪とか破滅のサンダーデストロイヤーよりはマシだと思ったんだけどなぁ。多分だけど俺、お前よりは若いし、字面もまだ賢そうじゃん?」

「てめぇ……!」

「あとさぁ、そんな理由で軽々しく首吊れるんならもういっそ首吊ってくんねぇかな」

「ぁあん!?」

「だってさぁ、ぶっちゃけ今のお前っていい年こいてクセェ台詞吐くよりよっぽど首吊りモンの醜態さらしてんじゃん。

 だったらもう首吊ってくれよ。そうしたら俺も討魔玉回収して仕事終われるしさー、お前もこれ以上苦しむ前に楽んなれるからお互いWin-Winじゃん?」

「どこがWin-Winだボケ! 俺死んでんじゃねーか! Win-Loseじゃねぇか!」

「文句多い奴だなぁ。だったらもうさっきの取引応じろよ。

 お前は俺に討魔玉を渡す。んで一切の悪事をやめてまともに働く。

 俺はお前に仕事の斡旋と家の手配をしてくれるよう上司に相談する。

 何なら整形や能力開発含めた肉体改造手術とか美人の使用人なんかも頼んでやれるぞ?

 なぁ、だからさぁ――

「黙れぃ! 取引なんて必要ねぇ!

 俺達の関係は最初からどっちかが死ぬかだけだ!

 俺を止めてぇなら殺せ!

 俺を生かしてぇなら死ね!

 ルールはそれだけだ!」

「……お前は素質あるし、ここで改心すりゃ化ける気がするんだがな」

「くどいぜ! 俺とお前は敵同士、宇宙が何巡しようと相容れることはねぇ!

 そして俺の、銀河性豪になるって夢は不滅だ! わかったら早く殺しに来い!」

「殺しに来い、か……。

 よしわかった、なら仕方ねぇ。こっちも仕事だ、ちいと本気を出させて貰おうか……」

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