俺しかいない世界(仮)

パニ野郎

一番のバカ

川沿いの公園を歩く。

タバコを咥えてからライターがないことに気がついた。

俺は舌打ちをこらえて口に咥えたままで歩く。


十二月上旬、昼下がりの日曜日。

天気が良くこの季節なのに暖かい。

そのせいで親子連れが目立つ。

カップルもそこら中にいる。

胸糞悪い景色。

ニコチンが切れたせいかイライラが募る。

そんな俺の顔を見て前から歩いてきたおじさんが俺を大きく避けて通り抜けていった。


川の向こうを見ると、そこには自分たち二人しか存在しない世界とでも思っているのか、体が溶け込んでいるかのように密着して歩いているカップルがいた。

「チッ・・・」

今度は舌打ちを我慢できなかった。

前を歩いている青年がビクッと震えてこっちを振り返った。

俺の目を見て目線を逸らす。

すかさず話しかけた。

「火を持ってませんか?」

「ぼ、僕、タバコ吸いませんから」

青年は目線を逸らしたまま早口で応えると幾分早足で歩きだした。

「チッ・・・」

青年に聞こえるように大きく舌打ちをした。


バカばっかりだ。

クリスマスに浮かれて歩くカップル共もバカだし、まともに目も見れないで応える青年もバカだ。

そんなバカどもに腹を立てる俺が一番バカだと気づくにはそんなに時間はかからなかった。


やり場のない怒りを持て余しながら俺は歩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る