イブに繋がった一本の奇跡

木沢 真流

ボランティア募集中

『イブに暇ならボランティアしませんか!!』


 その場違いに明るいメールのタイトルを、私はかれこれ長いこと見つめている。


 世間はクリスマスイブ。

 恋人達が街中を楽しそうに戯れている中、私は手持ち無沙汰に身の周りの整理をしていた。パソコンのメールも整理しなきゃと、迷惑メールの処理、返しそびれた返事はないかなどの確認をしているとき、偶然にもその一通が目についた。

 社会人になり、特にこの忙しい年末。ただでさえ寝る時間も惜しむ毎日なのにボランティアなんてもってのほかだ。

 しかも怪しい。普通の人は中身も見ずに削除するのだろう。


「へえ、動画通信アプリを使うのか」


 しかし気付けば私は、内容を確認していた。

 NOと言えない日本人代表の私は昔から人の頼みを断れなかった。処理能力が高いわけでは決してない。断って嫌われるのが怖い、ただそれだけだった。

 生まれつき損な性格だった私は、結局いつも都合のいいように使われ、貧乏くじばかり。同期入社はみんなそれなりに出世していっているのに、自分はいつまでたってもヒラのまま。

 これじゃだめだ。

 何度そう思ったことか。変えられないならもういっそのこと死んじまおうか、そう思ったこともある。ただその度に誰かに助けられ、なんとかここまで辿り着いた。


 今回も、もしそのボランティアに自分が参加しないせいで誰かに不利益があったら世間の目が怖い、メールを開いたのはそんなしょうもない理由だった。


 メールの中身はこうだ。

「三田メンタルケアセンター」という施設のクリスマスイブ特別企画で、日頃の悩みを誰かに聞いてもらおう、という主旨らしい。その聞き役をボランティアとして募集しているとのこと。 

 内容はシンプルで、相談に乗って欲しい人の話を聴く、ただそれだけ。参加者は登録を終えた後、クリスマスイブの夜の九時から十一時までの二時間、パソコンの前で待機する。動画通信アプリをオンにしておき、自分の境遇と似たような人の依頼者があったら、自動的に自分にコールが来るよう結びつけてくれるらしい。

 相手の顔は見えない、年齢性別、相談内容はメールで伝えられるが、詳しい名前や住所などは話してはいけないし、聞いてもいけないことになっている。その後の個別なやりとりによるトラブルを防ぐためだろう。

 相談時間は三十分。それを過ぎると通話は自動的に切断される仕組みになっていた。だらだらと続かないよう、なるべく多くの方の相談を聞けるように、とのことだった。

 システムはわかった。

 しかし締め切りの九時が、三十分後に迫っている。


 どうするか。

 どうせやることもないし、せっかくだから参加してみるか。そんな軽い気持ちで私は登録をした。

 色々細かい経歴などを登録フォームに打ち込み、かなり時間を要した。九時二分前にやっと登録が終わり、一息ついていると時計のアラームが九時を教えた。するとその直後、早速一つ目の依頼が私のところへ来た。


 その相手の情報を、思わず私は二度見した。


「…………」


 何はともあれ、そのコールに出てみることにした。

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