実力
「『慈愛』と『殲滅』ってまさか……!」
「二人とも
「ルクさん、だいぶ落ち着かれていますけど、私達この人達と戦うんですよ?」
そんな二人を見て、彼女らは微笑する。
「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」
「少し見させていただくだけなので」
「絶対少しじゃない……」
「クリネ様、何か?」
「いえ、全く何も!」
下手なことを言って、貴重な指名依頼を無駄にする訳にもいかない、そう思ったクリネは失言を誤魔化した。
二人はその後、ベルルカの個室から老執事ガランドに、屋敷中央の広場に案内された。
広場も個室から同様、豪奢な作りになっていた。美しい花々が咲き誇り、噴水の流れている景色は大変壮観だった。
その為、広場中央に設けられた空きスペースは、とても異様だった。荘厳な空間に、ぽつりと空虚な空間が空いている。
「この広場の中心を戦場とし、二対二で試合をして頂きます。制限時間、無制限。決着は、寸止めと致します」
ガランドは、淡々と対戦内容を告げる。内容に、理不尽なところは無い。但しそれは、相手との実力が拮抗している場合だ。
上位千名までが決められるのだが、まず普通の人間では載ることが出来ない。
何らかの方法で人間を卒業することが、最低条件と言われている。
つまり、目の前にいるのは人では無い。
だが、戦闘をするためだけの兵器という訳でもないのが、ハンターというものだ。
如何に先の手を読むかや、刻一刻と変化する戦況への対応力の高さなども、強さの条件の一つだ。ナンバリング内に、非戦闘員がいることが何よりの証拠だろう。
「では、両者獲物を」
ガランドの掛け声で、それぞれは獲物を持つ。
女侍二人は無論刀を、クリネは、肩に背負った大剣を。
そう、大剣なのである。常に使い慣れている
これには、とある理由があった。
(あの二人は、基本的に手数の多い攻めが特徴……つまり、スピード勝負を挑むのは無謀か。それなら、いっそのこと、この特性のあるこの大剣にしてしまえば、いけるかもしれない……)
上位者というのは、その戦闘スタイルなどが一般に熟知されている。参考にしたり、今後の対戦などで生かすためだ。
ある程度の期間ギルドに所属し、情報網が確立されている彼女だからこそ出来た芸当であった。
それでも、 使い慣れた
そして、ルクは____
「徒手空拳で行きます」
「え?」
「本気ですか?」
ベテランハンターである二人も、ルクの不可解な行動には驚きを隠せなかった。刀に対して拳で挑むなど、無謀もいいとこだ。
ましてや、相手は剣術の達人。勝算など微塵も感じられない。だが、ルクはいつも通り装備を変えようとはしなかった。
______________________
「それでは、初めっ!」
勇ましい老紳士の掛け声が、戦いの幕開けを告げた。
先に仕掛けた来たのはルクとかいう少年だった。
クシルスの鳩尾へ、鋭い一撃を喰らわそうとする。
無論、クシルスも驚くこともなく冷静に剣の柄で一撃を防ぐ。
「っ!?」
しかし、予想を遥かに超えた衝撃。慌ててまともに受けようとしていたのを、いなす方向へシフトする。
(重すぎる!この少年の体躯からは、考えられない程の威力だわ……)
それでもどうにかしていなすことに成功し、反対にルクはたたらを踏む。
「はああああああっ!」
その隙をクシルスは逃すことなく、手首を捻りガラ空きの首に刀を滑り込ませる。
だが、ルクは超人的な勘で、後ろからの猛撃を屈んで避ける。
その後、屈んだ姿勢で回し蹴りを放つ。
しかしそれは、クシルスに跳んで避けられる。彼女は再度仕掛けるために、刀を構え直す。
ルクも一度後方へ跳び、状況は元に戻った。
「はあっ!」
今度は、クシルスの攻める番だった。クシルスは、先程とは違い気合いを入れて攻撃を仕掛ける。
一瞬隙があるようにしか見えない、大上段。
だが、そんなものはクシルス自身が許さなかった。ルクが好機だと思って飛び込んできたところを、返り討ちにするつもりだった。
ルクが防御の姿勢をとったので、クシルスは袈裟斬りを敢行する。
振り下ろされる美しく
(っ、この子本気!?私のこの『氷剣イスオーリ』は、
クシルスの予想は、
「身体改造『
ルクの静かな声とともに、この世界の理は歪められた。
ルクの腕のありとあらゆる細胞が、脳から出される
まだ熱い鉄を叩いたかのような甲高い音と共に、クシルスの氷剣は弾かれた。
「なっ!?」
そう、弾いたのだ。この世界に置いて最硬とされている物質、、、オリハルコンを。
地下深くで途方も無い年月を掛け、徐々に魔素を取り込み出来た、元はただの鉱石。
特に氷剣イスオーリはその中でも、上質なオリハルコンを厳選し、鍛造されている。
「あなたは、一体………?」
「ただのしがないハンターですよ」
2人が交差する度に、イスオーリから悲鳴が上がり火花が飛ぶ。
「はあっっっ!!」
「ぐっ」
不味いな、とクシルスは純粋に感じた。これは、圧倒的に差がある敵に感じるそれだった。
「っ」
猛撃は、更に続いていく。剣戟が続いていくにつれ、攻撃の速度と重さが増してきている。
これでは、ジリ貧だ。
クシルスの額には、いつしか汗が浮かび、彼女の焦りを象徴していた。
彼女の脳裏には、戦闘前には絶対に選ばなかった筈の方法が、浮かぶ。
(ぐっ、このままじゃ押され切ってしまう!『あれ』を使うしかないの…………?)
______________________
彼女と対峙してみて、改めて彼女の恐ろしさがわ分かった。
緋色の髪が特徴的なレイカは、二つ名『殲滅』として業界では知られている。
由来は、彼女の徹底した戦闘スタイルからだ。
彼女の使用する
「そんなに緊張しなくても、焔魔導は使わないわよ、うふふ」
「そ、そうですか。あ、あはは……」
やばい、思考が読まれている。対峙しただけでだ。
つまり、戦闘中にも次の手が読まれる可能性があるということだ。もう存在している次元が違う。
「あら?攻めないのならこちらから行かせてもらうわよ」
そう言うやいなや、 レイカの体は消える。
「!?」
視認できない。それでも、本能で背中に背負っていた大剣エルトを、盾代わりに掲げる。
衝突。
轟音、そんな言葉では表しきれない程の空気の振動が発生する。
質のいいオリハルコン製の大剣が、女性の一撃で軋んだ音を立てている。
周りの空気が物が、ありとあらゆる全てが、衝撃波によって揺らぐ。
(手が、痺れる……)
日々の鍛錬は、怠っていないつもりだったが、やはり受けきれていなかった。
対するレイカの方は、攻撃を受け止めたクリネに驚きつつも、まだまだ余裕な表情だった。
「なかなかやるわね。では、これならどうかしら?」
来る。そう思ったときにはもう手遅れだった。
(また消えた……?)
背筋に悪寒。
本能的に大剣を振り向きざまに振るう。再度、衝撃が走る。やっとのことで、目が追いつくとそこにはレイカの姿があった。
「これも、防ぐのね……あなた、なかなかやるわね」
(今の動きは、一体?)
と、クリネが不思議がっていると
「あ、今の?あれは、ただ貴女の上を跳び越えただけよ」
また心を読んだかのような返答をするレイカ。何より恐ろしいのは、あの人間離れした身体能力だろう。
あれは、反則級だ。だが、ここで引くわけにはいかない。先輩として、一人のハンターとして。
「あら、もう終わりかしら?」
「いや、まだです。まだここじゃ負けられません!」
「ふーん、いい
「今度は、こっちから行きますよ!」
エルトを一旦持ち直し、上段の構えを取る。一度大きく息を吸い、突撃を実行する。
二人の距離が詰まる。クリネは剣を振り上げ、素早く振り下ろそうとする。
だがそれはレイカに見切られ、剣の射程外に逃げられてしまった。
(ここまでは、予想通りっ。後は!)
「『覇光!』」
クリネの声に応じるかのように、エルトはその刀身を光り輝かせる。クリネが勢いよく振り下ろす!そして、
剣から波状の光撃が放たれる。その一撃は、光速で飛翔し、レイカへと迫る。完全に不意を着いた一撃。避けられる筈が無い。
なのに、
超人的な身体能力により、レイカの被害は髪が数本切られただけだった。
(嘘……あれだけの速さの一撃を避けるの?)
不味い。今の自分は隙だらけだ。でも、体が動かない。やられる。
「合格よ」
「え?いや、だって」
「私に一撃とはいえ、攻撃を当てたのよ?もう少し自信を持ってくれてもいいのだけど」
「……」
確かに、彼女の言う通りだ。対戦前、あんなに高く評価していたベテランハンターに、攻撃できたのだ。
だが、
「やっぱり、満足出来ないかしら?」
「はい…」
相手は自分の得意技を封じて、勝負している。対して自分は、
本当の戦闘だったら、直ぐに死んでいるだろう。
その様子に、レイカは微笑みながら言葉を掛けた。
「その心掛けは、いいことよ。クリネといったかしら?来なさい、この高みへ。そしたら、また勝負しましょう」
「はい!」
まだまだ足りないことだらけで、課題も山積みだけど。いつか、この人のようなハンターになる。クリネは、そう心に誓ったのであった。
______________________
「貴女、まだお得意の
「そう言われてしまったら、仕方がありませんね。では、お見せしましょう。『水刃』っ!」
氷剣イスオーリは、その刀身に変化が起こった。刀身が揺らいだかと思うと、まるで生きているかのようにうねり出したのだ。
「この子は、一度狙った獲物は逃しませんよ、覚悟して下さいっ!」
そう言って、クシルスは音速もかくや、といったスピードでルクに迫った____
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