組合

「今回集まって頂いたのは、この案件が少し特殊なものであるからです」


 そうルクたちの前で、話を切り出したのは壮年の大男だった。精悍な顔に、白い顎髭を生やしている。


 目は鷹のような鋭さを帯びていて、顔の傷から歴戦の勇士であったことが伺える。


 ここは、ギルド内にある応接間。


 絢爛豪華な装飾品がいたるところに配置され、まず一般人なら入ることが許されないだろう聖域。


 豪奢な特注の机を中心として椅子が配置されている。ルクたちの向かい側に座るは、、、


 ___アルフレッド=ロクラタイナ。


 スサム区の狩猟組合長ギルドマスターである。


 若い頃は、数々の魔物を狩ってきたという。その中にはもいたとかいないとか。付いた二つ名は『覇者はしゃ』。


 その後ハンターを引退し、今度はハンターたちを総括する立場になって、ハンター育成に努めている。






 さて、そんなお偉いさんが何故ルク達に会っているのかというと、


「今回の案件は、依頼主も異例なんですが、それよりも………」


「それよりも?」


「あの『事件』が関わっているんですよ」


「それは、本当ですか」


 ルクは、聞き返してしまうほどに驚愕した。


 しかしクリネからしてみれば、あの事件と言われてもルクが巻き込まれた誘拐事件のこと、ぐらいにしか分からないだろう。



 ルクは一瞬にして、あの日起きたことを思い返してみる。あの日は確か、クリネに大見得を切った日だ。


 




「す、すみません。その、今話されている事件についてご説明願いたいんですが……」


 クリネが、堪らずといった様子で質問した。ルクの記憶の奥底に飛んでいた意識が、それによって現実に引き戻された。



 そして、アルフレッドは申し訳なさそうな顔をして、


「おっと、これは失礼。昨日の事件は、情報統制を敷いておりましたもので。貴女あなたはご存知ないのでしたね」


「そんなに重大な事件なのですか…」


「ええ、それはもう。ですが、いくら箝口令を出しても、人の噂とは恐ろしいもので……」


「そ、そうですか」


 若干クリネは、アルフレッドの落ち込み様に気圧されていた。予想以上のことだったのだろう、と容易に推測が出来た。




 その後、ギルマスは事件の概要を話し始めた。内容をまとめるとこうだ。


 昨夕、スサム区、アルシュミット通り二丁目にて、事件は発生した。


 イルサミ区長の一人娘が、女性の護衛を二人を引き連れていた時、路地裏で襲撃された。


「しかも、襲ったのは人ではなく、なんと魔物だったのですよ」


「何ですって?」


 信じられない。そんなことあるはずがない。クリネは、そう言いたげな表情だった。


 ルクがこの少女と関わってきて感じたのは、良くも悪くも顔に出る、ということだった。


 隠し事が出来ないと言うべきか、素直というべきか。





 ベセノムという街は、街のシンボルとも言える城壁で囲まれている。


 空を飛べたとしても、城壁の上に設置された自律機銃により、撃ち落とされる。飛べないなら尚更だ。


 最も可能性があるのが、観賞用ペットとして輸入された場合だ。


 だが、それも考えづらいだろう。ペットとしての魔物は、選別も調教も入念になされる。それこそ、今回のようなことがないようにだ。




「私達も現在調査中ですが、まだ原因は分かってないんですよ」


「そうだったんですか……」


 クリネは何度も頷き、今までの会話を反芻しているようだった。


 兎にも角にも、クリネに状況を理解してもらえないと、話が進まないのだ。


 そんなことをルクが思っていると、アルフレッドがとある提案を持ちかけてきた。


「ルク君。君は、いくらでハンターになったからといって、新人ルーキーなことに変わりはないですよ。この依頼は指名ですが、クリネ君と組んでくれないでしょうか?許可は、私の権限で出します」


「分かりました。僕も、クリネさんがついてくれると助かりますね」


「え、ほ、本当ですか。嬉しいこと言ってくれますね……でも珍しいですよ、ルクさんは。普通、新人は、一人でクエストや依頼を受けたがるものだと思いますけど。そんな風に言って貰えたからには、私で良ければご一緒させてもらいます」


 新人あるあるの一つで、傲慢になりがちというのがある。何でも、一人で成果を上げたがるのだ。


 そういうハンターに限って、無理をして命を落とす。初めのうちは、経験を積んだ先輩について行くのが正しい。たとえそれが、荷物持ちであってもだ。


 これは昨日読んだ、『新人ハンターの心得』といういかにもなタイトルの本に書いてあった。




 アルフレッドは二人の返事に頷き、まとめに入った。


「では、お二人の確認が取れたので、今回の指名依頼はルクさんとクリネさんで遂行して頂きます。お二人共健闘を祈ります」


「「了解しました!」」




 二人が応接間を後にしようとすると、アルフレッドは、ルクに声を掛ける。


「どうしました?」


 ルクがそう聞くと、彼は先程とは打って変わって、顔をくしゃっとさせて、


「こんなこと言うのは、あんまり好きじゃないが…………死ぬんじゃねぇぞ。気張ってこい」


 とルクに言ってきた。もしかしたら、こちらの方が本性なのかもしれないと、ルクは感じた。






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