謝罪
「本当に、すみませんでした!」
「いや、気にしなくていいですって!」
ルクは、焦りに焦っていた。
(しまった! 女性が襲われてるから助けないとって思ってたけど、ハンターだったなんて!)
師匠から、その存在を聞かされていたルクは彼女の教えを反芻する。
曰く、ハンターは誇り高き職であると。曰く、ハンターは屈強な選ばれし者しかなれないと。
しかし、ルクの目の前にいる少女は明らかにルクと同い年くらいである。
時代が変われば、ハンターも変わるのだろうか。
(っ!)
ルクは気づく。少女の軽装備の下に隠されている筋肉に。
無駄につけられておらず、しっかりと絞られている筋肉は戦士のそれだった。
「どうかしましたか?」
ついじっと見つめてしまったようだ。少女が尋ねてくる。
「いえ……貴女の名前を教えて頂けますか?」
慌てて、ポーカーフェイスで取り繕う。
「クリネ=システィナベル……クリネって呼んでください」
(システィナベルか………)
何かが引っかかる。確かその苗字は………駄目だ。記憶の中には確かにあるのに、頭が引き出すことを拒んでいる。
___思い出してはいけない、と。
「いえ、なんでもないです。えっと申し訳ないんですけど、近くの街まで案内して頂けますか?」
「あ、はい!」
「いやー、僕と同い年くらいなのにハンターやってるなんて凄いですね」
「まぁ、目標があるので…」
「素晴らしいですね。目標を持てるなんて、とても羨ましいです」
「……」
なかなか会話が続かない。どうやらまだ警戒しているらしい。
それもそうだ。見知らぬ男に、出会ったばかりで仲良くなれる方がおかしい。
しかも、空から落ちてきたなんて。ハンターじゃなかったら、ビビって逃げ出してしまうだろう。
会話だって、不自然極まりない。目標を持てるのが羨ましいなどといきなり言われて、戸惑わない者が居るわけが無い。
ふと、ルクは隣を歩いている少女に目をやる。先程は謝罪の念が強くて気がつかなかったが、端正な顔立ちをしている。
パッチリと開いた吸い込まれそうな二重の碧眼。淡い紅色をした唇に、形の整った高い鼻や秀麗な眉。
髪はそれだけで芸術品と言えるほど美しい白銀。それぞれのパーツが綺麗に小さな顔にまとまっている。
とても惹かれるものがあった。自分の拙い表現力では表しきれない。
思わず、見
「どうかしましたか?」
しまった。
不躾ながら、クリネという少女のことをまじまじと見てしまったようだ。師匠がいたら、怒られてしまうだろう。
「いや、どこに向かっているのかなぁって……」
「ベセノムですが?」
少女は、分からないの? 的な目線を向けている。
これも悪手だったようだ。
「そう、でしたか…最近は来ることがなかったので、ここら辺の地理には疎いんですよ」
「そうだったんですか。では、私が街を案内しましょうか?」
「そうして頂けると助かります。あと、1つお伺いしたいんですが……」
「何でしょうか?」
「ハンターになる為にはどうすれば良いのでしょうか?」
「え!? ハンターになりたいんですか?」
今度は信じられないといった目を向けられてしまう。
そんなに突拍子も無いことなのだろうか?
こんな一見
「いや、魔物や魔導について知りたいもので…」
なるべく当たり障りの無いことを述べるルク。すると彼女は何故か悲しそうな目をしてそうでしたか、と呟く。
その様子を見て、ルクは決心する。
「クリネさん」
「はい?」
「ううん、こんなこと聞くのはあれですけど……貴女は、ハンターを辞めたいなんて、思ったことありませんか?」
「えっ……」
やっぱりだ。彼女は、クリネは、ハンターになりたくてなっている訳では無い。
出会った時から気づいていたが、 心に何か抱えている者の目をしている、とルクは感じた。しかもそれは、あまりプラスのものではない気がした。
「そんなことある訳ないですよね、変なこと聞いちゃってすみません」
だが、深くは関わらないよう心がける。関わっては行けない気がした。それはまるで、人の敷地にずかずか入り込んでしまうような。
先程、彼女の苗字を知った時と同じ感じがした。
そもそも、初対面の相手にぶつけるような質問ではなかったと、反省した。
そしてまた、彼女は黙り込んでしまう。
ルクは、質問ばかりではあまり良くないと判断し、次はどんな話題を振るか迷っていると、
「うわぁっっー!」
「「!」」
何処からか、悲鳴が上がる。
ルクは音の方へ駆ける。それに追従するように、クリネが付いてくる。先程の会話など頭の片隅に追いやって。人を助ける為に全力を尽くす。
だが、ルクは頭からこの会話を完全に消すことは出来なかった。
(彼女は何かを抱えてる、絶対に)
今その事を考えても、詮無きことだと分かっていても、考えてしまう。
思考を止めることが出来なかったという方が、正しいのかもしれない。
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