桜を見る会
エリー.ファー
桜を見る会
桜を見る会に生きたいので人を殺す。
という所から話は始まる。
なんでも、桜を見る会というのは、人を殺さないと見に行けないらしい。
たぶん、勘違いだとは思うけれど、なんとなく人を殺すことにする。
というような嘘をインターネットの掲示板やら、SNSに書き込んでみる。
目立ちたいのだ。
でも。
少し考えてもみれば、この桜を見る会というものに参加する人たちも同じなのではないだろうか。
場所は。
火星らしい。
ということは分かる。
特に何か批判したいわけでもないのだが、食事が振舞われるのであれば行きたいし、食費を浮かせたい。
切実に。
昨日だって、アンパンと、クリームパンの小さいやつを食べただけだ。しかも、飲み物は牛乳ではなく水道水。
冷たかった。
嫌いではないけれど。
それにしても。
桜を見る会とは何なのだろう。
桜を見て、何なのだろう。
桜を見てもお腹は膨れないし、桜を見ても別に心は豊かにはならないのではないか。いや、一定数はいるのだろう。桜の花びらが心の中に入り込み、ふとした瞬間、あの淡い色を仄かに通わせる。
分かるけれど。
分かるけれども。
桜を見る会、という言い方だと、なんとなく、情緒分かってますよ風が出る。
日本人としての誇り忘れてませんか、的な感じを受けるのだ。
忘れてないし、余計なお世話だと思う。
でも、桜を見る会に行きたい。
実際、この桜を見る会は、ハンシェル事件のこともあってから、国交の途絶えていた火星との友好を示し合わせるための第一歩として始まったものである。敢えて言うのであれば、完全嗄声招致とほぼ同じ理由になる。原因自体まで同一であるということにはならないが、元はフィンランドと火星の間で取り交わされた、運送法の締結と変更に伴うテロの防止策としての意味合いも強い。桜が選ばれたのは、確か火星のカンショウという植物が桜に似ていることと、近くに植えると根が絡みあい、一つの木になることが観察されたためである。ただし、地球の植物は随分前に、横結線字膜という病に侵されているという宇宙的な規模での植物会議で発表されたばかりであったので、心配の声も多い。
それに。
火星の植物、生物は基本的に重要保護生命プログラムに該当しているものが数多くある。
地球如きが何か、病を蔓延させるようなきっかけを作ったら。
簡単に滅ぼされる。
当たり前である。
桜を見る会は、こちら地球側が全額費用を持つことになっているのである。
この規模のスペースアンタクションの中で、地球はかなり下等な位置である。アンタクション間の戦争が起きた場合は、おそらく地球人が最初に駆り出されるだろう。その状況からの脱出も考えての、桜を見る会。
私が行っても別に役に立てる訳もなく。
私が行ったところで何の感想も生まれない。
そんな自分が桜を見る会に行く意味があるのか、と考える。
別に、招待状が来ている訳でもないのだが。
別に、招待状が来る予定もないのだが。
予定が何も入っていないことを贅沢だと思えるほど達観していないし、そういう立ち位置に行きたいとも思わない。
ただ。
桜を視界に入れた瞬間くらい、美しいと思えれば別にこともなしだろう。
でも。
桜を見る会のサクラでもいいから行ってみたいとは思う。
自分のこういう所が小賢しいと思う。
アパートの窓を開けると、敷地内に生えている大きな桜の木が満開になっていた。
不意に考えてしまう。
久しぶりに窓を開けた気がする。
桜は淡くて、結構、良い感じだった。
なんだ、感じって、語彙力ないな。
「ま、いっか。」
自分の小賢しさまで愛せるようになったら、人は幸せになれると思う。
こんな感じじゃ駄目っすかね。
桜を見る会 エリー.ファー @eri-far-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます