第9話 〜眠け〜

「に〜に...眠いよ...」


 目をこする妹を見てそろそろ僕も寝ようかと思い始めていた。


「そうだな...俺ももう眠いし寝ようかな、おやすみ〜」


 そう言いながら自分の部屋に戻ろうとすると、不意に手を繋がれた。


「どうしたんだ?ノーレ」


「に〜にと寝たい...」


 急な告白に俺は息を飲む。

 一応血の繋がっている妹だろうから何も問題はないが、それはタルトの場合であって俺の場合ではない。


「すまない、お兄ちゃんは疲れてるんだごめ...」


 そう言いかけると、妹の表情が曇ってしまったので慌てて言い換える。


「うそうそ!お兄ちゃんノーレと一緒に寝たいな〜」


「本当!?」


「そうそう本当本当」


 えへへ〜と笑う彼女に上手いこと乗せられている気がするが仕方がない。

 俺はため息を吐きながら自分の部屋へと向かう。


「に〜にもベッドで一緒に寝よ」


 眠る前だというのにまだ元気な笑顔を覗かせている彼女を見てまだまだ眠れそうにないなと思う俺だったが。


「Zzz〜」


「いやもう寝るんかい!」


 ベッドに入って数秒で眠ってしまった妹を見て思わずツッコンでしまう。

 まああれだけ昼に泳いで遊んでいたのでこうなるのも無理はないが、もう少し起きてそうな印象があったので意外である。


「まあ、俺も疲れてるからいいけどな...」


 妹の寝顔を見て安らぎを得つつ自分も瞳を閉じる。

 今日ノーレと遊んで久しぶりに心から楽しいと思えた。

 明日は何をしようか...。

 ふとそんなことを思い浮かべる俺はきっとこの世界を楽しんでいるのだろう。

 前世ではあまり得られなかった家族の優しさに触れて何か変わった気がする...。

 何かはわからない...、けれど前の世界に比べると暮らしやすいのは確かだ。


(なんで俺の親はあんなんだったんだ...、タルトが本当に羨ましい...)


 こっちでなら人間の優しい心に触れ合える、汚い心を俺はもう見たくないのだ。

 俺が眠りにつくと思い出すはあの記憶。


「人殺しの息子だから付き合っちゃダメよ」


 そんな声が周りから飛び交ってくる。

 何度も俺の心の突き刺さりどんどん心が汚れて行くのがわかった。

 そしてあの日の自殺に繋がるのだ。

 俺は首を吊って逃げた。

 あの世界から、親から、世間から。

 そんな俺がなぜこっちに転生したのか理由が知りたかったのだが、そうか...俺に神様はチャンスを与えてくれたのかもしれない。

 せめて二度目の人生は人並みの幸せを与えてあげようという配慮だと思うことにした。

 そういうことならば俺はこのチャンスを物にしたい。

 こっちの世界では人並みの幸せを得ようと思う。


「に〜に!朝だよ!」


 ノーレに起こされた俺はふっと笑いこう返した。


「おはようノーレ...」

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